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インタビューInterview

これからの相続・事業承継対策に欠かせない信託・一般社団法人

2016/09/16

宮田 房枝 税理士

 近年の大改正により「信託」と「一般社団法人」を活用した相続・事業承継対策が注目を集めている。今までの制度では対策が難しいと思っていた場面でも、これらの制度を利用すればシンプルに解決できるケースがあるという。果たしてどんな対策を打つことができるのか、このテーマの研修講師や書籍の執筆でも活躍する宮田房枝税理士に話を聞いた。

――信託・一般社団法人を活用した相続・事業承継対策が注目されていますが、その背景からお聞きします。
 信託というと、信託銀行や信託会社が受託者となる、いわゆる「商事信託」のイメージが強いかもしれませんが、平成19年に84年ぶりとなる信託法の大改正が行われ、家族や同族会社が受託者となる、いわゆる「民事信託」が積極的に活用できるようになりました。また、一般社団法人についても、平成20年12月に「新公益法人制度改革」が行われ、「設立」と「公益性の認定」を分けて、設立は登記だけでできるようになりました。これらの大改正により、どちらも相続・事業承継対策のツールとして注目されるようになったわけです。

――改正直後は実務の現場にあまり浸透しなかったように思います。
 
理由として考えられるのは、信託は財産管理の手法であり、必ずしも節税に繋がるわけではありません。そのため、特に税に詳しい人ほど、相続対策や事業承継対策において節税効果がないと対策を講じる意味がないと思いがちで、入口の段階で対策のツールから除いてしまっていることがあったように思います。一般社団法人についても、当初は新制度への移行手続きなどが注目され、また、それまで公益法人と関わりがなかった場合には、自分には関係ない制度改正と考えてしまうケースが多かったようです。

――その後、信託・一般社団法人を活用するメリットが浸透し始めてきたわけですね。
 
特に、金融機関の方々が信託・一般社団法人を活用した相続・事業承継対策を熱心に勉強されていて、社内研修の講師の依頼もよくいただきます。最近は、金融機関の方々が経営者や資産家のお客様に新しい相続・事業承継対策を提案し、その話をお客様が顧問の先生に相談するものの、先生方が対応に困ってしまう――、そんなケースが増えてきたように感じます。中には無理のある提案をされているところもあるようです。また、実際、私どもの事務所にも全国の先生方から相談が寄せられ、顧問の先生からお客様をご紹介いただいて、その先生と一緒に相続・事業承継対策を行うこともあります。税理士会の研修でお話をさせていただく機会もありますが、地方の会場でも満席になり、先生方の関心の高さがうかがえます。近年、納税者の方々もインターネットなどで情報収集されていますので、信託・一般社団法人を活用した相続・事業承継対策の理解がさらに浸透すれば、関与先から相談されるケースも増えてくると思います。

確実な財産承継、円滑な事業承継を実現

――信託・一般社団法人を活用するとどんな対策が打てるのでしょうか。
 
例えば民事信託を活用することで、成年後見制度よりも柔軟な財産管理ができるほか、遺言よりも確実な財産承継・円滑な事業承継ができ、先代経営者の相続にともなう“お家騒動”の回避にも効果を発揮します。また、一般社団法人を活用すれば、相続財産額を固定することができるほか、安定株主対策や信託の受託者として活用することができます。これらは一例に過ぎず、100人いれば100通りのしくみが考えられます。ただし、信託や一般社団法人は、決して万能薬という制度ではありませんので、その点は注意が必要です。

――注意すべき点として、どのようなケースが考えられますか。
 
 例えば一般社団法人を設立して、そこに株式会社の株式を1,000万円で譲渡したとします。10年後、株式の評価額が5,000万円になった場合、一般社団法人は5,000万円の価値の株式を持つことになりますが、一般社団法人は「持分のない」法人です。そのため、この含み益が個人の相続財産に影響することはありません。ただ、こうしたケースのように、これから株価が値上がりするような場合は効果的ですが、最初から含み益がたくさんある株式を譲渡するとなれば、譲渡所得税や住民税の負担を考慮しなければなりません。また、一般社団法人の場合、株式会社と比べて「誰が支配しているか」が分かりにくいところがあります。そのため、例えば先代経営者と3人の子供が社員となって、同族会社の株式を所有する一般社団法人を設立した場合、親が亡くなったとたん後継者以外の2人が結託して、後継者を追い出してしまうことも考えられます。まずはお客様から話を十分に聞き、それから活用すべきかどうかを判断することが重要といえます。


――個々の事案ごとに慎重に見極める必要があるわけですね。
  
一般社団法人については、一部の方には誤解があるようにも感じます。「一般社団法人を活用すれば必ず相続税の節税につながる」「一般社団法人は何をやってもいい」と思われる方もいらっしゃるようですが、そんなことはありません。場合によっては、何もしなかったときよりも多くの税金が発生することもあります。とはいえ、今までの制度では対策が難しいと思っていたような場面でも、信託や一般社団法人を活用すればシンプルに解決できるケースも多々ありますので、相続や事業承継に関する対策を考える上で、今後、これらの制度に関する知識が必要不可欠になると感じています。


――宮田先生の著書「図解 相続対策で信託・一般社団法人を使いこなす」の売れ行きが大変好調ですね。
  
発売後すぐに増刷が決まり、現在16刷が発行され、私自身とても驚きました。皆さんが「ちょっと気になるけど、難しそうだ」と思われがちな信託・一般社団法人について、概要と活用例をできるだけシンプルにお伝えしたいと思い、図表やイラストを多用して執筆しました。特に、相談の多い15の事例についてはイメージがつきやすいように人物設定をして、会話形式によって紹介しています。この本を通して信託や一般社団法人の制度をより身近に感じていただき、よりよい相続・事業承継対策につながったら大変嬉しく思います。

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