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インタビューInterview

加速するキャッシュレスの世界 フィンテックで何が変わるのか?(下)

2016/11/11

瀧 俊雄 氏 マネーフォワード取締役 兼 Fintech研究所長

――フィンテックは税理士事務所にどのような影響をもたらしますか。
 
 マネーフォワード社のクラウド型会計ソフト「MFクラウド会計」で説明しますと、取引明細の自動取得機能を利用することで、訪問・郵送手配を不要とし、明細一覧化の手動入力作業量が大幅に減少します。勘定科目が自動提案されるため、ボタンを押すだけで仕訳が完了。顧問先ごとの仕訳ルールの登録も可能となっています。
 これまでの手作業による仕訳は、コンピュータが自動処理してくれますので、中期的に見た場合、従来の記帳代行業務はなくなる方向にあると考えます。特に、一般的な事業では、毎月繰り返し行われるような取引が、仕訳データの90%以上も占めています。このようなデータは、過去の情報を参照しながら自動的に分類され、入力そのものが不要となってきます。税理士の先生方は、機械的な自動判断が適切であったかを確認するだけで済みます。会計処理は、そろばんから電卓に、そして電卓からパソコンへと代わってきましたが、これからは入力作業が自動処理へと変遷していく時代だといえます。
 こうした話を聞くと、オックスフォード大学の人工知能(AI)に関する論文を思い出す方もいらっしゃるのではないでしょうか。論文では将来、人工知能の普及により税理士の仕事がなくなると言われていますが、それはあくまでも税理士事務所の入力作業がなくなるだけで、仕事がなくなるとはまったく思いません。私どもはベンチャー企業ですが、創業期はプロダクトを作っている過程だったため売上がほとんどなく、いつ潰れてもおかしくないと感じ、不安でした。しかし、顧問税理士の先生はいつも「潰れないから大丈夫」と言ってくださっていました。経営者は、自分一人で悩みを抱えたり、追い込まれたりするものです。そんな時、いろいろなビジネスや経営を見てきて、しかも企業の財務について知見がある税理士先生の意見は非常に心強いものです。それは、私どもの実体験からも断言できます。
 近年は医師の世界でも、医療行為などで人工知能が使用されています。難病の判定なども非常に高いレベルで行うことができるようになりましたが、患者の様子を見て「今日はもういいから寝てください」などと説得したり、不安を抱えている表情を見て「何か心配でもありますか」などと尋ねることは、人工知能にはできません。人工知能は難しい問題を解くことができても、不安な空気を読み取ったり、感情を読み取ることを不得意としていますので、そこは人間が積極的に対応すべきところだといえます。

――人間とITにはそれぞれの役割があるということでしょうか。

 
はい。税理士事務所の仕事においても、これまでの入力作業を自動化させることで、税理士先生は経営者の不安をヒアリングしたり、アドバイスを提供することに集中できるようになります。最近は、そうしたアドバイスを補助するツールも充実しています。例えば、人工知能によって今後の資金繰りを予測するサービスです。会社に属していると、トップに対して危機的な発言をすることを苦手とする方も少なくありません。しかし、人間と違ってコンピュータは、この時期に資金が厳しくなるなど警告を発してくれますので、その点は良いと思いますね。資金繰りのほかにも、経営者からヒアリングして経営分析する際、客観的なデータが重要となりますが、マネーフォワード社では自社の計数をリアルタイムで把握できるサービスを提供しています。

 こうした補助ツールがさらに充実してくれば、経営者としてもごく一部の重要な経営判断に集中できるようになります。ただ、どんなにITが進化しても、最終的に意思決定をするのは経営者ですから、その背中を押してあげる人が欠かせません。その役割を担うのは、まさに税理士の先生方ではないでしょうか。

――今後、IT化の流れはさらに加速していきそうですね。

 
そうですね。ITの先進国を見ると、例えば、アメリカのインテュイット(Intuit)社では、給与所得の源泉徴収票をiPhoneのカメラで撮影すると、インターネット経由で確定申告ができるサービスを提供しています。しかも、利用者がその内容を確認してOKボタンを押す前に、還付金をもっと受けられる可能性がある場合、そのアドバイスを買いませんかというセールスを仕掛けています。アドバイス料と還付金が同額程度なら払いませんが、100ドルや200ドルも還付金が増えるなら考えますよね。

 また、大前研一さんがよくおっしゃっている話ですが、IT化によってエストニアでは税理士や会計士の仕事がなくなったと言われています。これは、エストニアという国の特性もありますが、エストニアではいち早く電子政府を実現させ、日本のマイナンバーのように国民一人ひとりにIDを持たせました。そして、全国民の預金残高を把握し、すべての銀行取引にIDを付すことで、課税額の計算をすべて自動で行っています。これにより、国民は様々な端末から自分の納税額を確認し、承認するだけで確定申告が終わりますので、税理士や会計士の役割が消滅したというわけです。私自身は、日本においては、自動化できる作業は自動化を進めつつも、税理士や会計士の仕事は今後も重要であると考えていますが、このようにフィンテックは自動化によって作業が楽になるほか、手続きが楽になるというメリットもあります。
 ITの先進国に比べると、日本はまだまだ遅れていると思いますが、日本でもマイナポータルが整備されつつあります。マイナポータルとは、パソコンや携帯端末から自分の個人情報の内容を確認できるほか、行政情報のお知らせを受け取ったり、行政機関への手続きを一度で済ませることができるサービスで、納税などの決済をキャッシュレスで電子的に行うサービスも検討されています。マイナポータルは平成29年1月に開始予定ですが、こうした電子インフラがしっかり機能してくると、近い将来、日本でも行政機関の手続きなどが大きく変わってくるかもしれません。
 最後に、フィンテックというと難しく感じる方もいらっしゃると思いますが、税理士事務所の業務の効率化はもちろん、関与先のビジネスにおいても強力な武器になりますので、是非、多くの税理士先生にフィンテックの可能性を知ってもらいたいと思います。

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