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税務の勘所Vital Point of Tax

「私道供用宅地」を認めない高裁の判断は違法 最高裁が審理を差戻し

2017/03/08

 相続財産である土地の一部につき、財産評価基本通達24に定める私道の用に供されている宅地(以下、私道供用宅地)として相続税の申告をしたところ、所轄税務署から貸家建付地として評価すべきとして更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分を受けたため、その取消しを求めていた裁判で、最高裁は2月28日、税務署の主張を認めた高裁の判断には、「相続税法22条の解釈適用を誤った違法がある」として判決を破棄し、東京高裁に差し戻す判断を下した。

 争いの内容は次のとおり。被相続人は、平成20年3月に死亡し、本件上告人らがその財産を共同相続した。その後、上告人らは遺産分割協議を行い、その一人が、A市およびB市の土地とその上の共同住宅を取得することとなった。

 それらの土地には、いずれもインターロッキング舗装が施された幅員2メートルの歩道状空地が存在している。都市計画法所定の開発行為の許可を受けて共同住宅を建築した際、市の指導によって市道に隣接する形で整備されたものだ。

 歩道状空地と隣接する市道との間には、若干の段差があるものの、特に出入りを遮断するものはなく、外観上、車道脇の歩道として各共同住宅の居住者等以外の第三者も利用することが可能となっている。また、近隣の小学校の通学路にも指定され、児童らが通学に利用している。

 上告人らは、これらの歩道状空地について私道供用宅地として相続税の申告を行った。しかし、所轄税務署は、いずれも私道供用宅地に該当せず、各共同住宅の敷地(貸家建付地)として評価すべきと判断。上告人らは平成23年9月に異議申立て、翌年12月に審査請求をしたが、いずれも棄却され、平成25年6月に訴えを提起。1審、2審とも税務署の判断に軍配が上がり、争いの舞台は最高裁へと移った。

 高裁は、私人が所有する道を私道と捉えた場合、①建物敷地の接道義務を満たすために建築基準法上の道路とされるものは、道路内の建築制限や私道の変更等の制限などの制約があるのに対し、②所有者が事実上一般の通行の用に供しているものは、特段の事情がない限り、私道を廃止して通常の宅地として利用することも可能であるから、財産評価基本通達24にいう私道とは、その利用に①のような制約あるものを指すと解するのが相当であることを示した。

 そして、本件の各歩道状空地に当てはめると、建築基準法等の法令上の制約がある土地ではなく、また、各歩道状空地が市から要綱等に基づく指導によって設置されたことをもって上記①のような制約と評価する余地があるとしても、これは被相続人がそれを受け入れつつ開発行為を行うのが適切であると考えた上での選択の結果生じたものであり、上告人らが利用形態を変更することで通常の宅地と同様に利用することができる潜在的可能性と価値を有するから、財産評価基本通達24にいう私道供用宅地に該当しないと判断した。

 しかし、最高裁は、高裁の判断を「是認することはできない」とした。その理由として、まず、相続税法22条は、相続により取得した財産の価額は、財産取得時の時価による旨を定めており、この時価とは、課税時期である被相続人の死亡時における当該財産の客観的交換価値をいうものと解される。そして、私道供用宅地については、それが第三者の通行の用に供され、所有者が自己の意思によって自由に使用、収益または処分をすることに制約が存在することにより、その客観的交換価値が低下する場合に、相続税に係る財産の評価において減額されるべきとした。

 そうすると、相続税の財産評価において、私道の用に供されている宅地につき客観的交換価値が低下するものとして減額されるべき場合を、建築基準法等の法令によって建築制限や私道の変更等の制限などの制約が課されている場合に限定する理由はなく、そのような宅地の相続税に係る財産の評価における減額の要否及び程度は、私道としての利用に関する建築基準法等の法令上の制約の有無のみならず、当該宅地の位置関係、形状等や道路としての利用状況、これらを踏まえた道路以外の用途への転用の難易等に照らし、当該宅地の客観的交換価値に低下が認められるか否か、また、その低下がどの程度かを考慮して決定する必要があると判断。

 本件各歩道状空地は、いずれも相応の面積があり、共同住宅の居住者等以外の第三者も自由に通行している。共同住宅を建築する際、都市計画法所定の開発行為の許可を受けるために、市の指導要綱等を踏まえた行政指導によって私道の用に供されるに至ったものであり、各共同住宅が存在する限り、上告人らが道路以外の用途へ転用することが容易であるとは認めがたい。これらの事情に照らせば、「各共同住宅の建築のための開発行為が被相続人による選択の結果であるとしても、このことから直ちに各歩道状空地について減額して評価をする必要がないということはできない」とし、具体的に検討することなく、減額をする必要がないとした原審の判断には「相続税法22条の解釈適用を誤った違法がある」と判断。裁判官全員一致の意見で、さらに審理を尽くさせるために原判決を破棄し、本件を東京高裁に差し戻すこととした。

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