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税務の勘所Vital Point of Tax

民法(相続関係)等の改正 持戻し免除の意思表示の推定規定

2017/10/31

 配偶者保護の観点から相続法制の見直しに向けて審議を進めてきた法務省の民法(相続関係)部会が、昨年6月の中間試案に続き、今年7月、追加試案をとりまとめて公表した。中間試案で提示した配偶者の相続分の引上案に反対意見が多数を占めたことから、追加試案には、特別受益を定めた民法903条を見直し、持戻し免除の意思表示の推定規定を規律化する方向性が代案として打ち出された。

 昭和55年の配偶者の法定相続分の引上げや寄与分制度の創設等の後、相続法制の実質的な見直しは30年以上行われてこなかった。その間、高齢化社会が急速に進み、家族のあり方に関する国民意識にも変化が出てきた。

 その顕著な例が、最高裁大法廷が平成25年9月、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする民法900条4号ただし書きの前半部分を違憲と決定したことだ。その結果、同年12月、嫡出子と非嫡出子の相続分を同等とする旨改められた。その一方で、残された配偶者への配慮等から相続法制を見直すべきという問題提起も多く出された。そうした問題提起を踏まえ、相続法制の見直しに向けての審議を求める諮問が法務大臣からされた。

 諮問を踏まえ、民法(相続関係)部会(部会長/大村敦志東京大学大学院教授)は、昨年6月、「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」を取りまとめ、パブリックコメントにかけた。その結果、配偶者の相続分引上げに対する反対意見が多数を占めたことから、その代案となる新たな配偶者保護策(持戻し免除の意思表示推定規定)などを審議・検討し、今年7月、「中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)」を取りまとめ、パブリックコメントにかけた。

 同部会はこれまで、①配偶者の居住権の保護、②配偶者の貢献に準じた遺産分割をするための方策、③寄与分の制度の見直し、④遺留分制度の見直し、⑤相続人以外の者の貢献の考慮、⑥預貯金等の可分債権の取扱い、⑦遺言制度――等々の問題を、配偶者保護の観点から検討を進め、その検討結果を中間試案としてまとめた。

 中間試案には、居住権を保護するための方策や遺産分割時の配偶者の相続分の引上げが提示され、配偶者の居住権を保護するための方策として、①短期居住権と②長期居住権の新設を提示。短期居住権は、配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合、遺産分割(協議、調停又は審判)により建物の帰属が確定するまでの間は、引き続き無償で建物の使用を認めるというもの。一方、長期居住権は、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を、終身又は一定期間、建物の使用を認める権利を新設するというもの。短期居住権は配偶者の安定に資するとして賛成意見が大半を占めたが、長期居住権については、配偶者の居住権保護の観点からの賛成意見と、財産評価の困難性等を理由にした反対意見とに分かれた。

 また、配偶者の相続分の引上げは遺産分割に関する枠組みの中で提案されたもので、3案が提示された。しかし、配偶者の相続分の引上げには反対意見が多数を占めたため、中間試案段階で撤回の方向性になった。

 代案が、「持戻し免除の意思表示の推定規定」。これは、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方の配偶者から他方の配偶者に、居住用建物又は敷地(居住用不動産)が遺贈又は贈与された場合、民法903条3項が定める「持戻しの免除の意思表示」があったものとみなし、遺産分割時に、原則、居住用不動産の持戻し計算を不要とするもの。つまり、居住用不動産を特別受益として扱わずに、計算できるという考え方だ。

 ちなみに、特別受益を定めた民法903条は、各相続人の相続分を算定する際は、通常、相続人に対する贈与の目的財産は相続財産とみなされ、相続人が遺贈又は贈与によって取得した財産は特別受益に当たるとされ、相続人の相続分の額からその財産の価額を控除することにしている。これが持戻し計算になるが、超過特別受益に該当する場合を除いては、贈与等があっても、配偶者の最終的な取得額は贈与等がなかった場合と比べても変わらない。しかし、被相続人が特別受益の持戻し免除の意思表示をした場合は、特別受益の持戻し計算をする必要がそもそもなくなるため、贈与等を受けても、配偶者はより多くの財産を最終的に取得できるようになる。

 現行法上、配偶者への贈与に特別な配慮をしているのが、贈与税の配偶者軽減特例。配偶者に対する一定の贈与等に、同特例と同様の観点から、民法上に一定の措置を講ずることは、贈与税の特例と相まって配偶者の生活保障を手厚くするものであり、諮問の趣旨にも沿うという考えが働いた模様だ。

 また、婚姻期間が20年を超える場合の夫婦間の贈与等は、それまでの貢献に報いるとともに、老後の生活保障を手厚くする趣旨で行われるものと考えられ、遺産分割における配偶者の相続分を算定する際には、その価額を控除してこれを減少させる意図は有していない場合が多いとも考えられたためだ。

 こうした経緯から、追加試案に、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方の配偶者が、他方の配偶者に居住用不動産等を贈与等した場合は、持戻し免除の意思表示があったものと推定する旨の規律を掲げることを提示したわけだ。相続法制部会は、追加試案のパブリックコメントの結果を踏まえて更に審議を進め、今年年末か来年初めに要綱案のとりまとめを目指している。30年ぶりとなる相続法制の見直しの方向性も、より具体的な段階に入ってきたといえよう。

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