日税グループは、税理士先生の情報収集をお手伝いします。日税ジャーナルオンライン

MENU

保険・不動産Vital Point of Tax

裁決事例から学ぶ 不動産所得における必要経費

2021/03/27

 最近は不動産投資を専門とした個人事業主も増えているが、個人でアパート経営をしている場合、不動産所得の計算において気になるのが、必要経費として認められる支出の範囲だ。

 不動産所得は、所得税の計算上、アパートの家賃や地代などの収入から必要経費を引いて計算する。必要経費とは原則、「売上原価その他当該総収入金額を得るために直接した費用及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」(所得税法37条)とされている。

 不動産所得の必要経費として一般的によく知られているのは、アパートなどの資産についての固定資産税・都市計画税、火災保険などの保険料、減価償却費や修繕費など。当然、必要経費が増えれば増えるほど所得税の節税になるため、必要経費になることがはっきりしているものについては、きちんと計上しておきたい。

 一方、税務署と納税者の争いが絶えないのが、家事上の経費と明確に区分できるもので、「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」だ。こうした費用についても、業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分できる場合は必要経費に含めることができる。

 当然、個人的な生活費や趣味などに支払った費用は必要経費とはならないが、問題なのは、業務の遂行上必要である費用かどうかを明確に線引きすることが難しいケース。例えば、アパート経営とプライベートの両方で使用する通信費のような支出だ。「アパート経営でも結構使っているから…」などと通信費をすべて経費扱いにしていると、後々になって税務署から誤りを指摘されることも考えられる。

 そこで、どのような費用負担であれば必要経費として認められるのか、そのヒントとなる裁決事例を確認しておきたい(国税不服審判所 平成30年9月12日)。

ひび割れに関する書籍を購入、実際にひび割れを補修すると・・・

 裁決書によると、Aさんは平成26年3月に勤め先を退職したが、その退職時期をまたいで不動産貸付業を営んでいた。そして、平成25年分と平成26年分(いずれも法定申告期限後)と、平成27年分(法定申告期限内)の所得税の確定申告を行ったところ、必要経費をめぐって税務署と争いになり、最終的に国税不服審判所に判断してもらうことになった。

 問題となった支出は、①業務の参考図書等の費用「図書研修費」として約34万円、②業務を円滑にする「接待交際費」の約46万円、③福利厚生費など(いずれも平成25年分~平成27年分の合計額)。国税不服審判所は、Aさんと税務署から事情を聴いたうえ、自らも調査したところで、次のような支出は必要経費になると判断している。

 まず、「図書研修費」のうち「不動産賃貸経営および住まいのリフォームならびに会社経営および住宅建築上のノウハウなどの建築工事に関して書かれた書籍」の購入費用について。その中で審判所が必要経費と判断したのは、Aさんが経営する賃貸住宅の維持管理において、Aさん自身が作業を行ったと認められるもの。例えば、Aさんは、ひび割れの発生状況とその要因、ひび割れが発生してしまった後の処置について書かれた書籍を購入したが、実際にAさんはコンクリートのひび割れの補修を行っており、「補修のために書籍が活用された」と判断されたわけだ。

 このように、Aさんが購入した書籍が必要経費として認められるには、Aさん自身が行った賃貸物件の各室の機器や備品の交換、補修、修理など各種の作業に直接関係し、業務の遂行上必要と認められることがポイントといえる。つまり、Aさんが購入した書籍が、Aさんの事業に何らかの関係がある内容であっても、客観的にみて業務に直接関係しなければ必要経費と認められないわけだ。なお、Aさんが図書関係で認められた必要経費は合計10万円8091円だった。

 次に、「接待交際費」のうち、Aさんの事業に係る不動産の管理会社を訪問した際の手土産代(お菓子代)や、スタッフに対する謝礼のためのギフト券の購入費について。審判所の調査により、実際に不動産管理会社に対してお菓子を贈答していることが複数回認められたほか、平成26年には管理会社が管理する物件の収入が前年より増加している事実も分かり、「不動産管理会社との円滑な取引関係を維持するために支出されたもの」として業務関連性が認められている。

 また、同じく「接待交際費」では、Aさんが設計監理を依頼した設計会社に所属する長年の付き合いがある建築士の一級建築士合格祝いに支出した飲食代も必要経費として認められている。

 この設計士は建物取得時の設計担当者で、その後もAさんの事業に関し設計士として関わりがあり、Aさんが支払った飲食代は「事業に関し設計士との円滑な取引関係を維持するために支出されたもの」と判断された。なお、必要経費として認められた土産代と飲食費の合計は3万8916円だった。

PAGE TOP