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保険・不動産Vital Point of Tax

1500万円の追徴取消し 土地建物の一括売買、消費税は「価額按分」がポイント

2022/10/26

 土地建物を一括して売買する取引がある。この場合、土地は消費税が非課税だが、建物は消費税が課税されるため、契約に際して取引総額については売主・買主の間で合意しても、売主側の「消費税をなるべく下げたい」という思惑と、買主側の「建物価額で多くの減価償却をとりたい」という思惑がぶつかり、建物価額が決まらない場合も少なくない。その結果、土地と建物の価格の区分をしないで契約するケースも見受けられる。

 とはいえ、消費税を納める売主側としては、建物の価額を合理的に按分したいところ。このような事態に備え、消費税法施行令45条3項では、区分方法として「当該課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、これらの資産の譲渡の対価の額に、これらの資産の譲渡の時における当該課税資産の価額と当該非課税資産の価額との合計額のうちに当該課税資産の価額の占める割合を乗じて計算した金額とする」と規定している。

 具体的な按分方法としては、①譲渡時における土地および建物のそれぞれ時価の比率による按分、②相続税評価額や固定資産税評価額を基にした按分、③土地、建物の原価(取得費、造成費、一般管理費・販売費、支払利子などを含む)を基にした案分がある。

 このうち、土地と建物の固定資産税評価額の比で按分する方法は実務でもよく利用されるが、その評価方法をめぐって税務署と納税者で争いになることも少なくない。
 先日も、大阪市中央区の商業ビルを土地ごと一括して10億500万円で売却した不動産業者が、消費税をめぐり税務署と裁判になった事案がある。この争いでは、不動者業者側が約1500万円もの追徴課税の取消しを勝ち取っている(東京地裁令和4年6月7日判決・確定)。

 判決によると、不動産業者は平成28年、売却した商業ビルの建物価額について、およそ土地8・建物2が適切な割合だとして平成29年3月に消費税を申告・納付した。

 ところが、税務署はそれを認めず、土地と建物の固定資産税評価額の比(55.51:44.49)で按分すべきだとして申告漏れを指摘。消費税と地方消費税、加算税等の合計1800万円弱の追徴課税をしたことから争いとなった。

 東京地裁は、「固定資産税評価額による価額比を用いることは、一般的には、その合理性を肯定し得ないものではない」としながらも、「当該資産の個別事情を考慮した適正な鑑定が行われ、その結果、固定資産税評価額と異なる評価がされ、価額比においても実質的な差異が生じた場合には、もはや固定資産税評価額による価額比を用いて按分する合理性を肯定する根拠は失われ、適正な鑑定に基づく評価額による価額比を用いて按分するのがより合理的となるというべき」と説示。

 その上で東京地裁は、原告の不動産業者の求めにより裁判所が鑑定人を選定し実施していた不動産鑑定に関し、鑑定評価額は適正と認め、「鑑定評価額比率は77.30対22.30であり、建物の価額が占める割合について相当な乖離が生じており、消費税の課税標準を算出するに当たって実質的な差異が生じているものといえる。そうすると、(中略)、固定資産税評価額比率による按分法を用いる合理性を肯定する根拠は失われており、鑑定評価額比率による按分法を用いることが相当」として、消費税と地方消費税、加算税等の合計約1500万円の追徴を取消した。

 建物価額が高額になる場合、不動産鑑定を実施して消費税の申告・納付に備えることも、消費税を払い過ぎないためには悪くない選択といえそうだ。

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