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「分割協議のやり直し」はNG?

2019/02/25

「アキラ(弟の名)、早く遺産分割協議書にハンコ押してくれよ」
「兄貴はそういうけど、俺はまだ分け方が腑に落ちないんだ」
「だけどグズグズしてたら、もう10カ月たっちゃうじゃないか」

■10カ月以内に分割できれば2大特典が使える
 相続では遺産を相続する人たちが全員で話し合い、分け方を決めて「遺産分割協議書」を作る必要があります。ところがこんな感じで、「もうすぐ申告期限だから早くハンコを押しなさい」といわれて納得しないまま、遺産分割協議書にハンコを押してしまう方がよくいます。

 相続税の申告には期限がありますが、分割協議には期限がありません。
 いたずらに話し合いを拒否して長引かせたりするのは迷惑な話ですが、心の中でモヤモヤしながら分割協議書にハンコを押しても後からトラブルになるケースが多いため、注意が必要です。
 相続税の申告期限は相続開始(親の死亡など)を知ってから10カ月以内となっています。適用できれば効果が大きいのに、この期間までに分割協議が整っていないと適用できない特例が2つあります。「配偶者の税額軽減」と「小規模宅地の評価減」です。
 前者の配偶者の税額軽減とは、「配偶者が法定相続分(相続人が配偶者と子供の場合には2分の1)までの取得について相続税がかからない」という制度です。
 後者の小規模宅地の評価減とは、「自宅を相続した場合に330平方メートルまでの部分について80%評価額を減額できる」というものです。
 この2つの特例とも節税効果が大きく、また分割協議の成立が要件となっているので、税理士としては「なんとか期限に間に合わせて申告したい!」という気持ちが働きます。
 ただ、申告期限までに分割協議が調わない場合でも、申告期限から3年以内に分割が行われればこの2大特例は適用可能となります。
 とりあえずこの特例を適用しなくてもよいくらいの納税資金の用意があるならば、10カ月の期限にこだわらず、落ち着いて分割協議を調えてもよいのです。

■相続税を払ったあとに贈与税も!
 以下は以前相談にこられたAさんのケースです。

 Aさんは分割協議で納得がいかない点があったため最後まで粘り強くきょうだいと交渉していたのですが、長男から「おまえ以外は皆納得している。あとでオレが相続した土地をおまえの名義にしてやるから、とりあえずハンコを押してくれ」といわれて押印しました。その分割に基づいて相続税も納付し、そののちに兄が相続した土地を約束通りAさんの名義にしました。
 ところが、この手続きを自ら法務局で行ったら「兄から弟への贈与」として登記され、後日税務署から呼び出され、贈与税が課せられてしまいました。当人同士は弟名義にするところまでが相続手続きだと思っていましたが、税務署から見れば「相続後に兄弟間の贈与が行われただけ」だったのです。

■「ノー! やり直しなんてとんでもない」
 いろいろな相続の専門家に「遺産分割協議はやり直せますか?」と質問したとしましょう。そう聞くと、弁護士は「全員が合意すればできますよ」と回答し、司法書士は「新しい分割協議書に押印していただければ登記できますよ」とアドバイスします。

 しかし税理士からすると「ノー! やり直しなんてとんでもない」と叫びたいところです。
 なぜならば、税務の世界では「分割協議のやり直しはできるが、贈与税や所得税がかかる」からです。登記の仕方が「贈与」ではなく「錯誤」や「真正なる名義回復」であっても、税務上は同じ扱いになります。
 税務上のやり直しが利くのは偽造されたなど、そもそも分割協議が成立していなかった場合だけです。過去において、話し合いで合意した内容と異なる分割協議書を作成され、これにうっかり署名押印してしまいトラブルになった例がありました。
 「この間の話し合いに基づいて作成したものだからここにサインと押印をお願いね」といわれてサインと押印し、あとで確認したら本人に不利な内容となっていたのです。
 裁判まで進みましたがその分割協議書が無効とはされず部分的な譲歩で和解せざるを得ませんでした。それほど押印の意味は重いのです。したがって冒頭の通り、安易に妥協せずにちゃんと納得してから遺産分割協議書にハンコを押すのが正解なのです。

 アドバイザー/内藤 克 税理士
  
 ※同コラムは、内藤先生執筆の書籍『
残念な相続』(日本経済新聞出版社)に掲載されています。
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