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相続税の申告は「全員連名」がマスト?

2019/03/22

「先生、相続税の申告は必ず『全員連名』って決まってるんでしょうか」
「そうとは限りませんよ。本来は相続人それぞれが申告するのが原則なんですから」
「そうなんですね。実は私、姉ともめてまして、姉は私とは別に申告したいというんです」
「ほう。どうしてですかね」
「どうやら私の知らないところで父から生前贈与を受けていたようで、それを私に隠し通したいようなんです。私はうすうすわかっているんですけど」
「そうですか。それなら……」

■本来は別々に申告することに
 遺産分割には期限がありません。一方、相続税の申告には相続開始(親の死亡など)から10カ月以内という期限があります。申告期限が近づくことにより「そろそろ分割の話し合いをするか」と重い腰を上げるケースが多いのを見ると、相続税申告が分割協議の節目になっているのかもしれません。
 通常は、相続税の申告期限までに遺産分割協議を終えて、相続税申告書を「相続人連名で」提出することになりますが、最近は「相続人がそれぞれ別に相続税の申告を提出したい」というケースを見かけるようになってきました。
 相続税の納税義務者は、相続税法第1条で「相続または遺贈により財産を取得した者」とされています。そして被相続人や相続人がどこに居住しているかによって、課税される財産の範囲が決まってきます。
 また納税地はそれぞれの相続人の住所地とされており(相続税法第62条)、「同じ所轄税務署(申告書を提出する税務署)に複数相続人がいる場合には一つの申告書に連名で申告することができる」と規定されています。
 つまり本来、相続人はそれぞれ自分の住所の近くの税務署に申告するが、たまたま近所であれば一つの申告書に連名で申告してもいいよ、というのが原則なのです。
 ところが相続税法の付則で「当分の間、相続税本則にかかわらず被相続人の死亡のときにおける住所地とする」とも規定されているので、それを受けて一つの申告書に全員の連名で申告をするのが通常のパターンになっているのです。
 当然、申告書にはそれぞれが取得する財産やその評価額、また分割協議書には載っていない情報なども記載されていますから、相続争いでもめている場合などはこちらの情報が相手側に伝わることを恐れ、「別々の税理士にお願いして、相続人それぞれが個別に相続税の申告をする」というケースも出てくるわけです。

■隠しても結局誰も得しない
 相続税は被相続人の財産の全体像がつかめなければ計算できません。しかし、他の相続人と情報が共有できていない場合は完璧な財産の把握ができないため、最終的には税務署が間に入って財産の確定をすることになります。
 被相続人の残した財産のうち、登記簿謄本(全部事項証明書)や残高証明で確認できる「目に見える財産」(不動産や金融商品など)については申告期限の段階で分割が調っていなくても、財産の種類や評価額は確定できます。
 そのため、わざわざ相続人が別々に申告する必要はなく、「未分割申告」といって法定相続分で分割した扱いで計算すればいいのです。
 それでは、申告書を見ることによって相手に知られてしまうマズい情報(?)とはどんなものでしょうか?
 主なものとして「生前贈与(3年分)」「死亡退職金」「生命保険金」が挙げられます。
 これらの財産は本来の相続財産ではないため、遺産分割協議書や財産リストには記載されません。過去に贈与があった事実はお互いが黙っていれば他の人には知られずに済みますし、被相続人が特定の子供だけを受取人とした保険に加入していた場合は、相続人が保険会社に請求すれば他の相続人に知られずに保険金を受け取ることもできます。
 しかし、このように各相続人が別々に申告した場合は、税務署としては財産確定のため税務調査に入らざるを得なくなります。
 その上で財産の種類を最大公約数的に把握し、税理士によって異なった評価額を統一する作業を行うため修正申告を伴い、場合によっては加算税なども発生することになります。
 税務署の手によってお互いの財産がつまびらかになるため、もめていてお互いに調整がつかない(遺産が未分割)からといって別々に申告をしても、何の意味もありません。
 税理士に払う費用、税務署に払う加算税・延滞税などがかさむだけで、得することはないのです。

 アドバイザー/内藤 克 税理士

 ※同コラムは、内藤先生執筆の書籍『残念な相続』(日本経済新聞出版社)に掲載されています。『残念な相続』の詳細、ご購読はこちら

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