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第8回 家族信託は代理人で契約の締結はできるのか!

2019/01/31

代理人で作成された信託契約公正証書
 
最近、信託口座を扱っているある金融機関から「信託口座を開設してほしいと、代理人で作成された信託契約公正証書が持ち込まれましたが、大丈夫ですか。」との相談があった。

 即座に「信託契約は遺言であり、無効になる可能性は大です。」と説明した。

 この問題は、前回紹介した平成30年9月12日東京地裁判決の事例にもかかわることがらですが、信託法もまた、相続に関する事項については民法と補完的に相続法を構成しているという見方ができるという考え方(沖野眞巳「新しい信託法に期待するもの」NBL832号21頁。沖野眞己「信託法と相続法〜同時存在の原則、遺言事項、遺留分」水野紀子編『相続法の立法的課題』51-52頁)があるからです。

家族信託契約は、実質は遺言です。
 家族信託契約は、基本は「遺言代用信託」です。


 遺言代用信託とは、信頼できる受託者に財産を信託して、生存中は本人のために管理活用してもらい、亡くなった後には、配偶者やお子さん、お孫さんに財産を引き継ぐことができる信託です。この財産を引き継ぐ形態には二つあります。

 その一つが、「受益者連続型信託契約」です。この仕組みでの信託では、多くは、委託者が当初受益者となり、その受益者の死亡により、当該受益者の有する権利(信託受益権)が予め指定された者に順次承継される旨の定めのある信託のことをいいます。代表的なのが、信託法第91条の「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」です(この仕組みの信託は、受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定めのあるもので、当該信託がされた時から30年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有するという「100年型信託」ともいわれる特殊な信託です。)。

 今一つが「遺産分割型信託契約」です。

 この契約は、字のとおりで、遺産を信託を使って承継する方法で、委託者兼当初受益者の死亡により信託を終了させます。これにより相続人(帰属権利者等)は、遺産分割の手続を踏むことなく、本来相続財産となるべき財産を承継取得するのです。これを活用するのは、高齢者である委託者の相続財産をしっかり管理して散逸を防止し、確実に特定の相続人等へ承継することに狙いがあります。

 この説明でもお判りのように、家族信託契約は、実質は遺言なのです。

遺言は代理人では作成できない
 このことは誰でも知っている常識です。


 すなわち、「遺言については、遺言者自身で意思表示すべき(遺言書を作成すべき)ところを契約のように代理人に意思表示させては、遺言書は作れない」(満田忠彦ほか『遺言モデル文例と実務解説』青林書院3頁)のです。

信託契約と公正証書
 公正証書は、家族信託契約のほかに、任意後見契約、土地等賃貸借契約等の契約に関する公正証書、さらには遺言公正証書など、公証人が職務上作成する公文書です。公証人は、正当な理由のない限り、公正証書の作成嘱託を拒むことはできない嘱託受託義務を有していますが、一方で、違法無効等を内容とする法律行為について公正証書を作成することはできないのです(公証人法第26条)。したがって、公正証書に記載する内容は、法律行為等として適法かつ有効なものでなければならないとされています。


 実は、公証人の作成する契約等に関わる公正証書は本人だけでなく、代理人によっても作成することができることになっています。しかし、遺言公正証書や、任意後見契約等の公正証書は、代理人によってすることはできません。遺言は先に説明したとおりですが、任意後見契約の場合も本人の大事な金銭等財産を受任者に委託する契約ですので、公証人が直接本人に面接して意思確認することが義務付けられているからです。

 そこで家族信託契約ですが、この契約は、基本的には遺言に代替する遺言代用信託(誰に財産、あるいは信託受益権を承継させるのかを決めるもの)の契約であり、遺言と同じ機能を有しています。また、任意後見契約と同様、委託者の財産の管理等を託するのですが、その際名義を移転しますので、本人の意思の確認は不可欠です。このように信託契約については、遺言や任意後見契約と同じように代理人ではできないと考えられています(拙著「家族信託契約」23頁以下参照)。

 問題の信託契約公正証書について、その公証人がいかなる考えで代理人による公正証書を作成したかは判りませんが、信託財産の承継遺贈(帰属給付)を内容とするものであれば、一般には無効とされる信託契約書になるのではないでしょうか。

 信託契約については、銀行等金融機関において「信託口座」を開設するにあたって、公正証書の提出を求められますが、これが無効というのではこれを組成した専門家の責任は大きいので、注意してほしいと思います。

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