社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~㊲
2024/10/30
2)
小規模宅地等特例における「居住の用に供されていた宅地」についてのエビデンス
(要点)
小規模宅地等の特例における、居住の用に供されていた宅地等は、2か所でも認められるとされた事例本件における納税者(原告・被控訴人・上告人)は、相続により取得した2つの土地について、どちらも被相続人の居住の用に供していたとして、居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例を適用して相続税の申告をしたのですが、所轄税務署長が、特例の対象となる宅地等は1か所しか認めないとして更正処分をした事例です。争点は、特例の対象となる「居住の用に供されていた宅地等」とは「主として居住の用に供されていた宅地等」に限られるかどうかです。
地裁は、所得税においては「居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限る」(措令20の3②)と規定しているが、本件特例にはそのような制限はないと判示し、特例の対象となる宅地等は複数存在することも認められるとして、納税者の主張を認めました。
これに対して国側が控訴し、控訴審では国側の主張が認められました。なお、上告は不受理決定がなされています。 判決(平成21年2月4日判決)(抄)
(2) 本件特例の「居住の用に供されていた」宅地に当たるかどうかについては、被相続人が生活の拠点を置いていたかどうかにより判断すべきであり、具体的にはその者の日常生活の状況、その建物への入居の目的、その建物の構造及び設備の状況、生活の拠点となるべき他の建物の有無その他の事実を総合勘案して判断されるべきである。
前記認定事実によれば、
・自動車を運転できない丁にとって、小城市家屋からでは、福岡へ仕入れに行ったり、佐賀市内に営業や買い物に行ったりするのに不便であったため、これを改善する目的で本件マンションを購入し、本件マンションには、電気、ガス、水道が供給されており、日常生活に必要な家具や電化製品も備えられており、生活の拠点として使用するに足りる設備が整えられていたことが認められる。
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(証拠)
・生活の拠点の基礎です。上掲の事情、背景、実態そのものが証拠となります。
・他方で、本件マンションの面積や間取りは、丁が一人で居住するには不必要なほど広く、電気もその使用量に比べて契約容量が極めて大きい。
家具や電化製品も世帯用の製品が購入されており、丁は運転免許を持たないにもかかわらず、駐車場契約を締結している。
したがって、本件マンションの入居目的が、専ら丁一人が仕入れ等の便宜のために居住するためのものであったかどうかについては疑問がある。
※ここは旧税制を意識しています。
さらに、丁の本件マンションの実際の利用状況(乙24)は、ガスの使用を開始した平成13年11月に1日宿泊した後、同年12月は一度立ち寄ったのみであり、平成14年1月は3日宿泊し、2日立ち寄ったが、同年2月は1日宿泊し、3日立ち寄ったのみである。その後、入退院を繰り返したため、同年6月に至って3日、同年7月に2日立ち寄ったものの宿泊することはなかった。本件マンションへの立ち寄りも定期的なものではなく散発的で、丁が福岡へ出かけた日と一致するものでもなく、福岡への仕入れやDの講座受講のための拠点として実際に使用されていたものではない。実際に使用された電気、ガス、水道も、極めて少量である。
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(証拠)
・生活の拠点ですから水道光熱費のチェックは入ります。ゆえに水道光熱費の利用状況を確認したうえで、その使用実績を記録しておきます。また、丁が本件マンションを住所として届け出た金融機関や取引先はなく、郵便物は小城市家屋に届けられており、本件マンションに届く郵便物はダイレクトメールの類に過ぎず(甲89)、知人らに本件マンションで生活していると知らせた形跡もなく、入退院を繰り返していた時期や平成14年8月以降は最後まで小城市家屋で療養していたものである。
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(証拠)
住民登録された場所が生活の本拠とされる住所(民22)とは限定されないことは明らかです。実態と異なっていれば実態基準(実質基準)にしたがって社会通念=常識=経験則で判断します。そのためにも実態要件を満たす上掲の水道光熱費やもし自動車利用であれば駐車場使用の有無、自動車を利用した形跡等々の常識的な生活形跡が必要となります。
このように住民票等々の外的要件を揃えたとしても、実態要件がなければ証拠として意味がないという典型事例になります。そして当該実態、すなわち、生活の本拠であれば通常利用されていたものについて過去からの累積があればあるほど証拠力は高くなります。
以上のとおりの本件マンションの利用状況等からすれば、丁が病気等の事情から利用できなかったことを考慮しても、丁は本件マンションにおいてほとんど生活していなかったのであり、その利用も散発的であって、被控訴人らが主張する小城市家屋と本件マンションの両方に居住する生活スタイルというものも確立するに至っておらず、本件マンションが生活の拠点として使用されていたとは認められない。(参照、下記、地方税との兼ね合いについても納税者は主張しています)
(3) 被控訴人らは、地方税法施行規則7条の2の15が地方税法施行令36条における「日常生活の用に供しないもの」の定義を「毎月1日以上の居住(括弧内省略)の用に供する家屋又はその部分以外の家屋又はその部分」としていることから、本件マンションは毎月1日以上の居住の用に供する家屋又はその部分に該当すると主張するが、同じ税体系の法律とはいえ、地方税法と相続税法ではその立法趣旨及び目的が異なるから、地方税法における用語の定義が相続税法ひいては本件特例にも妥当するとはいえない。また、前記認定事実によれば、丁は毎月宿泊していたものではなく、毎月1日以上居住の用に供していたとも認められないから、被控訴人らの主張は理由がない。したがって、本件宅地は、本件特例の「居住の用に供されていた」宅地に当たるとは認められない。
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