中小企業が外国人を雇用する場合の税金上の留意点
2019/11/08
最近、中小企業においても、人手不足の折、外国人労働者の数が急増している。2019年4月には、深刻な人手不足に対応するため出入国管理および難民認定法(入管法)が大幅に改正され、外国人労働者の数は、今後さらに増加することが予想される。そこで、中小企業が外国人労働者を雇用するに当たり、税金上、特に留意すべき事項について、阿部行輝税理士に解説してもらう。
1.居住形態と課税所得の範囲
外国人に係る税金の取扱いについては、在留資格の種類は関係なく、その外国人が居住者(永住者・非永住者)か非居住者かにより課税関係が決まってきます。
(1)居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいい(所法2①三)、居住者のうち非永住者とは、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人をいいます(所法2①四)。非永住者以外の居住者は、定義規定はありませんが、通常永住者と呼んでいます。課税所得の範囲は、永住者は国内源泉所得及び国外源泉所得すなわち全ての所得(所法7①一)、非永住者は国外源泉所得以外の所得及び国外源泉所得で国内において支払われ、又は国外から送金されたものが対象となります(所法7①二)。
(2)非居住者とは、居住者以外の個人をいいます(所法2①五)。課税所得の範囲は、国内源泉所得のみです(所法7①三)。
2.課税方法
(1)雇用した外国人が居住者(永住者・非永住者)の場合は、通常の日本人従業員と同じように課税されます。雇用主が給与を支給する場合、「給与所得者の扶養控除等申告書」の提出がある場合は甲欄、ない場合は乙欄で源泉徴収を行うこととなります。年末調整も、給与収入の金額が2,000万円を超えていなければ行う必要があります。
(2)雇用した外国人が非居住者の場合は、20.42%の源泉徴収を行います。源泉分離課税なので、課税関係はそれで終了し本人は確定申告を行うことはできません。
3.国外扶養親族
国外に扶養親族がいる場合、扶養控除等を受けるためには次の書類が必要です。
(1)親族関係書類として、①戸籍の附票の写しその他の国又は地方公共団体が発行した書類及び国外居住親族の旅券(パスポート)の写し、又は②外国政府又は外国の地方公共団体が発行した書類(国外居住親族の氏名、生年月日及び住所又は居所の記載があるものに限ります。)
(2)送金関係書類として、次の書類で、居住者がその年に国外居住親族の生活費又は教育費に充てるための支払を必要の都度、各人に行ったことを明らかにするもの。
① 金融機関の書類又はその写しで、その金融機関が行う為替取引により居住者から国外居住親族に支払をしたことを明らかにする書類(外国送金依頼書の控え)
②クレジットカード発行会社の書類又はその写しで、国外居住親族がクレジットカードにより商品等を購入したこと等により、居住者から受領等した金額を明らかにする書類(クレジットカードの利用明細書)
4.厚生年金の脱退一時金
外国人従業員が、厚生年金を脱退し出国した場合、日本年金機構に一定の手続きを行うことにより、脱退一時金を受け取ることができます。
非居住者が受け取る厚生年金の脱退一時金は、国内源泉所得(所法161①十二ハ)となり、支給時に20.42%の源泉徴収が行われます(所法164②二、169、170、復興財確法28①②)。脱退一時金は、退職手当等とみなす一時金(所法31①一)に該当し、非居住者が受け取る退職所得ですので退職所得の選択課税を行い(所法171)、税金の還付を受けることができます(所法173)。納税管理人の届出が必要です(通法117)。また、日本年金機構から送付される「国民年金・厚生年金保険脱退一時金支給決定通知書」あるいはその写しが必要となります(所令297①、所規71)。
5.住民税
3か月を超えて日本に在留する外国人で住所を有する者は、住民基本台帳に記録されます。個人の住民税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日(地法39、318)ですので、3か月超の在留許可を受け住民基本台帳に記録され、翌年1月1日現在日本に住所を有していれば住民税の納税義務が生じます。
6.相談事例
最近、外国人留学生(例えば中国人、インド人)を学生アルバイトとして雇用した場合の税金は、どのようになるのかという質問を多く受けます。税金の取扱いは、中国人留学生の場合と中国人以外の留学生の場合とで異なってきます。
(1)中国人留学生については、日中租税条約第21条により、日本での生活費や学費に充てる程度のアルバイト代であれば免税となります。日中租税条約の適用を受けるためには、「租税条約に関する届出書(様式8)」及び「訓練を受ける施設又は事業所の発行する事業、職業又は技術の修習者であることを証する書類」(実特法省令8①九)の提出が必要になります。すでに源泉徴収をしてしまっている場合は、「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書(様式11)」を「租税条約に関する届出書(様式8)」とともに提出することにより、還付を受けることができます。
(2)インド人留学生の場合は、日印租税条約第20条により、国外から支払われるもので、その生計、教育のために受け取る給付は免税とされます。日本でのアルバイトによる所得は、国外から支払われるものではないので免税とされません。
《ポイント》
イ 租税条約により、学生については免税とされる給付の範囲が異なりますので、各国との租税条約の内容を必ず確認する必要があります。
ロ 日本語学校など学校教育法に定めのない日本語学校などの専修学校又は各種学校に在学する就学生については、上記のような学生の免税条項の適用はありません。