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税務の勘所Vital Point of Tax

会計検査院 国外の中古等建物を活用した節税策に“待った”

2016/11/16

 会計検査院は11月7日、平成27年度決算検査報告を作成して内閣に送付した。その中の「特定検査対象に関する検査状況」において、ある“節税策”に対する指摘が行われている。それは、「国外に所在する中古の建物に係る所得税法上の減価償却費について」。

 そもそも減価償却費は、減価償却資産の取得日および種類に応じて定められた償却の方法と、耐用年数省令に基づいた法定耐用年数とによって定められた償却率を取得価額に乗ずるなどして計算するのが原則となっている。

 しかし、中古の減価償却資産の場合、法定耐用年数を用いることに代えて、①法定耐用年数の全部を経過した中古資産は「法定耐用年数の100分の20」、②法定耐用年数の一部を経過した中古資産は「法定耐用年数-経過年数+経過年数の100分の20」の算定方法、すなわち「簡便法」を用いることが認められている。

 そこで、現在の住宅用の建物の構造別の法定耐用年数を見てみると、木造または合成樹脂造は22年、れんが造、石造、ブロック造は38年、鉄骨鉄筋コンクリート造または鉄筋コンクリート造は47年。もし、法定耐用年数の全部を経過していれば、簡便法を用いて木造等の法定耐用年数は4年、れんが造等の38年は7年、鉄骨鉄筋コンクリート造等の47年は9年となる。

 これは、国外に所在する建物に対しても同一の税制が適用される。だが、アメリカやイギリスのほうが日本よりも建物が長期間使用されており、日本の戸建住宅は、築後20年までで価値が大きく低下するといわれている一方で、アメリカやイギリスの戸建住宅は、中古住宅と新築住宅との価格差が小さい。

 そこで、会計検査院は、「国外に所在する中古等建物については、簡便法により算定された耐用年数が建物の実際の使用期間に適合していないおそれがある」という点に目を光らせたわけだ。

 所得税額の申告納税額が多額となっている麹町税務署など10税務署から証拠書類として提出された平成23年分から25年分までの確定申告書等を検査したところ、国外に建物を所有していた延べ751人が減価償却費を計上していた建物延べ1585件のうち、耐用年数が10年以下の建物で中古と判断される建物、また、耐用年数が10年を超えて中古である旨の記載があった建物は延べ562件。このうち、国外の中古等建物は延べ511件で、減価償却費の合計は39億8650万円、所有者数は延べ337人だった。

 そして、国内に所在する中古等建物は、耐用年数が11年以上となっているものが過半を占めていたのに対し、国外に所在する中古等建物は耐用年数が4年、7年または9年となっているものが多く、とりわけ「4年」となっているものの割合が、国外に所在する中古等建物全体の約半数を占めていた。

 また、減価償却費と賃貸料収入を比較してみると、国内の中古等建物の90.1%が賃貸料収入の半分以下となっていたが、国外の中古等建物については、減価償却費が賃貸料収入を上回っているものが83.2%。これらの中には、賃貸料収入の10倍を超えるものもあり、賃貸料収入を大きく上回る減価償却費が計上されていた。

 さらに、国外に中古等建物を所有し、不動産所得に損失が生じている場合、賃貸料収入を上回る減価償却費が計上されているケースが多く、多額の減価償却費の計上が不動産所得の損失の主な要因となっていることが伺えた。

 こうした状況を踏まえ、会計検査院は、「賃貸料収入を上回る多額の減価償却費を計上している者は、不動産所得に損失が生じ、給与所得等の総合課税に属するほかの所得と損益通算を行うことで、所得金額および所得税額が減少することになる」、「将来的に減価償却費を計上できなくなり、不動産所得や所得税額が増加するが、中古等建物を譲渡したり、出国して非居住者になれば、将来的に増加する所得税額の一部を負担しないことになる」と指摘。

 今後の対応について「財務省において、国外に所在する中古の建物に係る減価償却費の在り方について、様々な視点から有効性および公平性を高めるような検討を行っていくことが肝要」として、国外の中古等建物を活用した節税策に“待った”をかける所見を示した。

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