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税務の勘所Vital Point of Tax

審判所 原発事故の風評被害による損害賠償金を非課税と認めず

2020/05/01

 原子力発電所の事故による風評被害等により電力会社から受領した損害賠償金が非課税所得に該当するか否かで争われていた事案で、非課税所得に該当しないと判断した国税不服審判所の裁決に注目が集まっている。

 
請求人は、肉用牛の肥育や販売を業とする個人事業者。東日本大震災により誘発された福島第一・第二原子力発電所の事故により風評被害にあったとして、肉用牛の損害に対する賠償金を請求するため、その事務を本件受託者(以下、B)に委託した。

 これを受けてBは電力会社に対し、請求人の肉用牛(棚卸資産)について、原発事故を原因とする風評被害等により価格が下落して損失を受けたとして損害賠償金を請求。電力会社がBを介し請求人に損害賠償金を支払うことでそれぞれ合意した。Bは、電力会社から各合意に基づき賠償金を受領した後、請求人名義の預金口座に振り込んだ。

 請求人は平成24年分、平成25年分、平成26年分の確定申告書を提出しておらず、原処分庁の調査担当職員の調査を受け、平成29年8月に平成24年分および平成25年分の確定申告書を提出した。その際、請求人は各期限後申告において、肉用牛の販売等に係る所得については事業所得として申告したが、本件賠償金については事業所得に含めなかった。

 しかし、原処分庁は、本件賠償金は非課税所得に該当せず、事業所得の収入金額に算入すべきものとして、更正処分および無申告加算税の賦課決定処分を行ったことで争いとなった。

 争点となったのは、本件賠償金が所得税法第9条1項第17号に規定する非課税所得に該当するか否か。また、本件賠償金の収入すべき時期などについて争われた。

「事業に係る収入金額に代わる性質を有する」

 所得税法第9条第1項第17項では、損害賠償金で心身に加えられた損害または突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるものは非課税所得に該当すると規定されており、請求人は「本件賠償金は、日常生活の不安、出荷制限、精神的なストレスおよび風評被害の見舞金であるから非課税所得に該当する」と主張した。

 しかし、審判所は、「本件賠償金は、風評被害による肉用牛の売却に係る価額の下落額、肉用牛の家畜評価額と売却に係る価額との差額、出荷制限により生じた損失および消費税等相当額などを損害として行われた賠償金の請求に対して、電力会社から支払われたもの」と指摘。そして、「そうすると、本件賠償金は原発事故という突発的な事故により、事業に係る棚卸資産につき損失を受けたことにより取得する損害賠償金であって、事業に係る収入金額に代わる性質を有するものと認められるから、所得税法第9条第1項第17号に規定する非課税所得には該当しない」として、「請求人の主張には理由がない」と判断した。

 また、本件賠償金の収入すべき時期について請求人は、「仮に本件賠償金が非課税所得に該当しないとしても、本件賠償金は、まとめて課税されるべきではなく、その対象となる肉用牛を売却した日が収入すべき時期となる」と主張した。

 これに対して審判所は、「所得税法第36条第1項は、収入の原因たる権利が確定的に発生した場合に、その時点で所得の実現があったものとして、権利発生の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解される」とした上で、「本件賠償金の支払いは、電力会社がBからの請求書の内容を確認した上で、必要な減額等を行った支払予定額を通知し、Bが当該通知の内容に合意して初めて賠償額が決定されるものである。そうすると、賠償金の収入の原因たる権利は、Bの合意によって権利実現の可能性を客観的に認識することができるようになったというべきであり、それぞれ各合意日に確定的に発生したものと認めるのが相当」と判断、請求人の主張を斥けた。

 なお、審判所は、「各更正決定処分は、争点についてこれを取り消すべき理由はない」としつつ、審判所の調査によって算出した各年分の事業所得の金額について、原処分庁の更正処分における金額を下回っている部分については一部取り消すこととした。

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