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税務の勘所Vital Point of Tax

東京地裁 国側主張の「特殊関係」認めず 関連会社への株譲渡による節税策

2017/10/30

 亡きオーナーから相続した自社株の評価方法は、「配当還元方式」かそれとも「類似業種比準方式」にするべきかで争われた裁判の判決が8月30日、東京地裁であった。これはオーナーが自社株を相続直前に関連会社に譲渡し、相続人と同族関係者の議決権割合を低下させる事実上の「自社株対策」を介在させていた事例で、副次的な争点として譲渡先の関連会社が相続人と「特殊な支配関係」にあったかどうかが問われていたものだ(日税ジャーナル第22号「自社株の相続税評価額「配当還元方式」をめぐる争いの行方」参照)。

 東京地裁は、国側主張に誤りがあり、自社株の譲渡先関連会社と相続人らとの間に「特殊な支配関係」があったとする主張立証がなかったことから、配当還元方式では適正な時価を算定することができない特別な事情があるとは認められないとして、国側を敗訴させた。国側は控訴せず、この裁判は確定した。

 同事案は、平成19年に非上場会社A社の代表取締役が亡くなったことに伴い、その配偶者(以下Bさんという)らが取得した株式の相続税評価額が争点になった。Bさんらは、取引相場のないA社株式について1年間に受け取る配当を10%の利率で割り戻して計算する配当還元方式で評価し、1株75円で申告したところ、税務署から上場会社の株価を参考にする類似業種比準方式により1株2,292円で評価すべきとして更正処分等を受けたことから、国税不服審判所への審査請求を経て裁判に及んでいた。

 亡くなったA社代表取締役は、相続開始直前、関連会社C社に自分が保有する自社株(15.88%)のうち725,000株(議決権割合7.88%)を1株当たり75円、合計54,375,000円で譲渡していた。問題のC社だが、A社の役員・従業員が出資しており、亡くなったA社代表取締役は株主や役員にはなっていなかった。

 一方、A社の場合、相続開始前後において筆頭株主グループの保有する株式の議決権の議決権全体に対する割合は3 0 %未満だった。こうしたことからBさんは、Bさんとその同族関係者の持つ議決権割合が14.91%で15%未満となったことから、その株式の相続税評価の方法は配当還元方式となる財産評価基本通達188⑶)として自社株を評価したわけだ。

 国税不服審判所の裁決では、C社について「法人税法施行令第4条第6項に規定する本件被相続人又は請求人の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者に該当するから」同族関係者に当たるとして、Bさんと同族関係者の保有する議決権の割合は15%を超え、Bさんらが取得した株式について配当還元方式での評価は認められなかった。

 しかし、東京地裁は、裁判において国側主張に誤りがあったことを指摘。亡くなったA社代表取締
役がC社の意思決定を実質的に行っていたとする具体的事情はないとしたほか、C社の株主はA社の役員・従業員が占めているものの、亡くなったA社代表取締役がA社の人事権を活用するなどして具体的に働きかけを行い、影響力を及ぼしていたという事情も認められないとした。

 また、C社は持ち株比率を下げることを目的に設立された会社であるとの国側の主張に対し、東京地裁は、C社への自社株譲渡が行われたのは設立から3年以上経過した後で、会社設立時に自社株譲渡を目的としていたと言うことはできないと否定。さらに、BさんとC社の関係についても、A社の議決権の行使につきBさんとの間で何らかの合意をしたことはなかったこと、Bさんから指示されたこともなかったことを認め、C社はBさんの意思と同一の内容の議決権を行使することに同意していたとは認められないとして、国側が主張する「特殊な支配関係」はないと判断した。

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