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税務の勘所Vital Point of Tax

退職者を被保険者とする支払保険料 審判所が法人の損金算入を認める

2018/10/24

法人が保険金受取人および保険料負担者で、法人の従業員(退職者を含む)を被保険者とするがん保険契約について、法人が支払った退職者の保険料が損金に算入できるかどうかをめぐる争いに対し、国税不服審判所が「退職者の支払保険料も損金に算入できる」と判断した裁決が注目されている(平成29年12月12日裁決)。

 請求人は平成20年3月設立の法人。平成21年から平成24年にかけて、請求人は従業員に対するがん治療費補助・見舞金制度について定めた「がん規程」に基づき、福利厚生の一環として、請求人が保険契約者および保険金受取人、従業員(退職者を含む)を被保険者とする終身がん保険契約を締結。保険料は、掛け捨てで満期返戻金はないが、保険契約の失効や解約の場合には、解約返戻金が請求人に払い戻される内容だった。請求人は法人税の申告において、がん保険の支払保険料を損金の額に算入していたが、退職者の分の保険料は損金に算入できないとして原処分庁が更正処分等を行ったことで争いとなった。

 原処分庁は、「法人税法上、公正処理基準によれば、法人税法第22条第3項に規定する(損金の額に算入すべき)販売費、一般管理費その他の費用とは、収益と個別的に対応させることの困難ないわば期間費用であって、事業活動と直接関連性を有し、事業遂行上必要な費用をいうものと解されるから、支出のうち、業務との関連性がないものは損金の額に算入することができない」と指摘。

 「退職者は、請求人の業務を行うことはなく、退職者に関する費用は、事業活動と直接の関連性を有する業務遂行上必要な費用であるとはいえず、業務との関連性が認められない」などと主張した。

 一方の請求人は、「従業員の採用時に、退職後も5年間は『がん治療費補助・見舞金制度規程』に記載する給付金等を支給することを書面で説明し、終身がん保険の契約時には同規程を配布して保険契約書に押印してもらうことにより、被保険者である従業員に周知し、また、『退職された方へ』という退職予定者に対する案内文にも、退職後も同規程によってがん診断給付金を支給すると明記している」、「退職した従業員も一定期間はがん保険等に加入することで、退職後の生活の安定を図り、在職者の長期勤続の奨励、福利厚生面の充実を図るという従業員に対する福利厚生を目的とした支出であり、租税特別措置法関係通達61の4(1)-10《福利厚生費と交際費等の区分》の(2)において、従業員等には従業員であった者を含むと定められていることからも、法人税法上の福利厚生費の範囲には従業員であった者も含むと解されるから、公正処理基準に従って計算されたものというべきである」などと訴えた。

審判所 「退職者支払保険料は業務の遂行上必要」

 これに対して審判所は、まず、「公正処理基準によれば、内国法人の所得の金額の計算上、損金の額に算入することができる販売費、一般管理費その他の費用とは、当該法人の業務との関連性を有し、業務の遂行上必要と認められるものでなければならない」と指摘。そして、「本件がん保険契約は、請求人の従業員の福利厚生を目的として治療費補助等制度に基づく見舞金等または弔慰金の原資とするために締結したもので、従業員との間でがん規定ならびに各書面により、従業員が退職した後も5年間は、退職者ががんに罹患またはがんにより死亡した場合に、受取保険金を原資として退職者に見舞金等または弔慰金を支払うことを約したものである」ことから、「がん保険契約に係る退職者支払保険料は、請求人の業務との関連性を有し、業務の遂行上必要と認められることから、損金の額に算入することができる」と判断した。

 また、「本件がん保険契約は、請求人が保険金受取人および保険料負担者となっており、請求人が受け取る保険金および解約返戻金等は、請求人の所得の計算上、益金の額に算入すべきものであり、受取保険金および受取解約返戻金等に係る支払保険料は、当該収益獲得のために費消された財貨と認められる」ことから、この点からも「退職者支払保険料は損金の額に算入できるとするのが相当」との考えを示した。

 さらに、「退職者を被保険者とした福利厚生目的の保険契約に係る支払保険料について、一定条件の下、損金の額に算入して差し支えない旨の取扱いが個別通達(昭和49年4月20日直審3-59ほか『団体定期保険の被保険者に退職者を含める場合の保険料の税務上の取扱いについて』および昭和60年2月28日直審3-30ほか『定年退職者医療保険制度に基づき負担する保険料の課税上の取扱いについて』)で明らかにされていることからしても、従業員が退職したことのみをもって、退職者を被保険者とする保険契約に係る支払保険料が業務との関連性が認められない費用であるとするのは相当ではない」と判断し、原処分庁の主張を退けた。

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