社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~⑤
2023/05/01
1)みなし贈与との関係
DESとみなし贈与についての論点です。DES により取得した株式は財産評価基本通達により評価(時価純資産価額方式により評価)します。それと出資金額(貸付金)とを比較し株式の評価額が出資金額(貸付金)より超過した場合、その超過した部分の金額については増資前の出資者=既存株主への株式含み益の移転となります。すなわちこの差額がみなし贈与の課税の対象になり得ます。
また、株式の評価額が出資金額(貸付金)に満たない場合のその満たない部分の金額については、新株の発行により利益移転しているため、みなし贈与課税となります(相法9 、相基通9-4 、評基通185)。
2)その他DES 実行前の下準備、役員借入金額の確認について留意点
オーナー(社長)と同族特殊関係法人間の金銭消費貸借契約について実務ではそもそも作成をしていないケースが多く見受けられます。しかし、相続税申告や残余財産の分配、DES 等々、その実在性について検討しなければならない事態に非常に多く遭遇します。
DES 時点で法人借入金の実在性を担保するため、別途契約書を残すことがあります。しかし、必須のものではありません。実務でも実働する司法書士によって対応がさまざまであったりします。
下記のようにDES 実行前に債務の実在性を確認する契約書を作成することもあります。法人でのオーナー(社長)借入金の実在性を担保するため、別途債務承認契約書を残すことがあります。いつの時点での残高で債務承認するのかが実務上問題になります。
弁護士等によって見解がかなり異なりますが、租税実務の観点からすると、
・保守的に残高を設定したい場合、最大値の残高を使う
・時効を主張するのであれば、時効以降で最大値の残高を使う
にせざるをえません。そして保守的な方を採用すべきです。
オーナー(社長)貸付金(会社では役員借入金)については、契約書の作成は必須です。これは、そもそもが金銭消費貸借であったか、贈与に当たるのか否かの判断における出発点になるからです。金銭消費貸借の契約が仮にない、という場合、
・ 通帳間での実際の資金移動(ただし、定期的に返済している事実が確認できていることが必須、返済の事実が長期にわたりない場合、贈与認定)
・帳簿記入(勘定科目内訳書作成も含めて)
という間接証拠の積み重ねが必要となります。オーナー法人では帳簿記入はほとんど疎明としては意味がないため(帳簿の記入に恣意性を介入できるから)、通帳間の移動のほうが疎明力は強いです。しかし、いずれにせよ原始契約書がない場合、金銭消費貸借か贈与かに係る事実認定は必ずなされます。
なお、原始契約書がない場合、時効も原則として成立しません。これも事実認定に着地しますが、例えば契約書がない状態で、上記「・」については整理完備されていたとしても、いわゆる時効の起算点が明確にはなりません(通帳間の移動年月日で主張し得るかどうかは事実認定の問題です)。
仮に時効論点の主張をしたいのなら、かなり保守的な手法ですが、前述の債務承認契約書を作成することで当事者間の意思の合致を証明し、起算点を明確にすることができます。より詳細を研究したい方は最判昭和56年6 月30日判タ447号76頁をご参照ください。なお、上記の時効については、除斥期間の論点についても、ほぼ同様の問題が生じえます(法律上定められた権利行使の期間制限ですが、権利が存在しているか? がわからないため)。
(参照)
処分証書を「その契約書等々通りでない」と認定するためには「契約書等に記載されている契約内容に経済的合理性がないと認められたとしても、そのことのみをもって課税した場合、訴訟上、その契約書等の信用力を覆すことは難しいと思われます。処分証書を否定する場合には、①処分証書と異なる合意が存在する、②ものの流れや金の流れが契約書のとおりになっていないなど契約書の内容が実態とは異なるなどの証拠を積み重ねて、特段の事情を主張・立証する必要があります。」とあるように実態との乖離について事実認定に着地すると判断しています。
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