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スキルアップ税務

社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~⑨

2023/07/03

1)
 分掌変更に係る「法人の経営に従事」とは実質判断に着地します。したがって、証拠の保全には万全を期す必要があります。法人税基本通達9-2-32の具体的な留意点は多岐にわたります。原則として「下記のすべて」を満たした場合、納税者は疎明が可能になったといえます。

〇「代表」(と付いているもの一切について)に係る名刺は処分。また、分掌変更後は一切使わない。典型的なものは代表取締役の名刺です。

〇社長室から撤退します。次の肩書の会長や相談役、顧問等々の専門室は一切不要です。従前社長室で使用されていた一切の備品については次の社長の専用にします。分掌変更後当該人は一切使用しないこととします。社員が「社長」と呼ぶのも問題視されます。調査官が社員に「あの方は誰ですか?」と聞けばすぐにわかる事項です。

〇ホームページ、会社案内パンフレット、その他SNS等々でもし組織図があれば、当該人の名前は一切消去します。

〇議事録、稟議書、報告書のみならずその他メールや社内SNS等々での氏名の記載、押印は一切しないこと、さらにいえば、署名押印できるスペース=「決済欄」自体を一切消去することとします。したがって、そもそも取締役会、経営幹部会、営業会議などに出席してはいけないこととなります。社内SNSでの報告連絡相談、いわゆるオンライン会議などのウェブを使っての出席も一切慎みます。

〇取引先の接待など重要な営業をしてはいけないこと、業界団体のイベントに会社代表者として参加してはならないこと。特に次代表と一緒に参加し、取引先等を紹介するといった行為は厳に慎むべきです。

〇退任後の役員給与の額は社内の他の役員や従業員、同業他社の役員と比べ、極端に高額にすることはできません。退任後の役員給与と「同族特殊関係者ではない」役員との給与比較はよく行われます。

〇ほとんど出社しない。いつ来て、いつ帰ったのか誰も把握していない状況が最もよいといえます。社内出勤管理表(ホワイトボードや社内ツールその他一切)に一切掲載しないことです。

〇金融機関折衝の場面では絶対に同席しないことです。金融機関への反面調査ですぐに発覚します。次後継者が金融機関折衝の仕方がわからないから、という理由で同席する場合も多いのですが、それは分掌変更「前」に引継ぎをしておくべきことです。これは、・後継者への引継ぎで経営などの重要事項に関与してアドバイスを行う・顧問税理士、顧問弁護士等々との会社に経営に係る事項に係る相談業務面談に出席するという場面でも同じことがいえます。

〇通帳、金庫の鍵があれば一切持たせないこと。手形帳、小切手帳、取引先名簿などの管理を一切しないこと。会社に係る経費のチェックもしてはいけません。

〇仮に分掌変更後も会長等が社用車を利用している場合の利用状況について経営に重要でないことであることを疎明する必要があります。上記までを考慮すると、ほとんど利用できません。できれば利用をやめるべきです。

〇大株主又は拒否権付種類株式(黄金株)の所有の有無を確認します。

 東京地裁平成20年6月27日判決のとおり、「株主として、議決権という権利を通じて間接的に影響を与えること」と「経営に直接かかわる役員の立場」は全く別です。したがって大株主であることは問題にはなりません。しかし、黄金株については会社の重要な意思決定に関して関与できることから、経営に関わっていると判断される可能性もないわけではありません。この点、現時点で裁決・裁判例が皆無のため、今後の動向に注視が必要です。

 また、属人的株式で議決権を多めに持っていることについての判断も現時点では実務通説はありません。

 こうして見ると、事業承継というと税理士としては株式を現オーナーから後継者へ円滑に異動するという視点ばかりから見ていますが、本来的な意味での経営承継はその前段階に社内でよく話し合い、現実として承継移行していることを確認する必要があるともいえます。税理士は経営承継には何もアドバイスできないため、上記の税リスクを事前に説明した上で、それが社内で完結しないかぎり税務上否認される可能性があることを明確にしておくべきです。納税者の主張が認められていた事案もありますが、見るべき証拠は同じところです。

令02-12-15裁決 TAINSコードF0-2-1010
(一部抜粋)

(ロ)本件経営会議以外での指示命令について
 原処分庁は、上記3の(3)の「原処分庁」欄のロのとおり、本件元代表者が、本件各退任後も継続して、本件経営会議以外においても、本件法人グループの各代表取締役や社員に対し、随時、各種業務に関する指示命令及び決裁を行っており、その中でも、■■に対しては、本件法人グループに属する各法人間の資金移動に係る指示などもしていた旨主張し、これに沿う証拠として、本件申述に係る各質問応答記録書のほか、平成26年9月30日から平成29年2月15日の期間における■■と本件元代表者との間のLINEの画面を撮影した画像データを出力した資料(以下「本件LINE」という。)を提出する。

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