社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~㉗
2024/05/28
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(参考判決・裁決)
平成20年1月23日裁決(裁決事例集No.75・78頁)
(実務上のポイント)
本件では出資者が2人います。出資払戻しは資本金等の減額扱いとなりますが、和解契約の経緯における事実認定から出資者2人のうち1人に支払った退職金につき損金不算入としたものです。
和解契約書等を作成する場合、名目は解決金といったものにしても、それを当局がどのように判断するのか考慮してのエビデンスの整理が必要です。例えば、その和解に至った経緯、なぜその金額になったかということについてのエビデンスは必須です。
また、相互に矛盾しない表現を使うことを意識することも必要です。ネットで検索できるような汎用の雛型を修正するときは、他の条項との関係もよく考えて修正を施します。
なお、契約書全般にいえますが、自分自身は理解できる、自分自身はこう思った、では自分しかわからないことと同義のため証拠にはなり得ません。
人証については税務調査の「時点」では事実認定に加味されるケースが多いといえます。係争機関では取扱いはかなりまちまちといえます。
人証のデメリットは、記憶が減退、変容している可能性が非常に多くあり、誤ったことを言ってしまう蓋然性が非常に高いことです。
また、質問内容によって表現が変わってくるため、調査担当者による誤導の可能性について意識して調査対応をする必要性が生じます。証拠保全の重要性は、原則的には、書証が人証よりも圧倒的に重要です。
課税上、重要となる事実に関しては、取引段階で、適切な書証を作成しておくことは必須であり、適正な形式を意識することによって、実態が適正とみなされる、という流れになります。
なお、本書とは本題がずれますが、税務当局が聴取書を作る意味は、証拠保全の重要性において原則的には、書証が人証よりも圧倒的に重要なためといえます。
書証については次のような不都合が生じ得ますが、それを聴取書にとることで、証拠の補完、固定化を試みているのです。
○書証と矛盾する内容であり、信用できない
○書証からは認定できないところを供述で埋めたい
なお、証拠を「保全」するために証拠法上の知識を活用することを述べており、証拠を「偽造」するために証拠法上の知識を活用することに関して述べていません。後者は明らかに「証拠の偽造」であり「虚偽証拠を作成すること」に該当します。これは重加算税等の対象になり得ます。
同様にバックデイトの契約書、議事録を作成することも、証拠の偽造、虚偽証拠を作成することになり得ます。
したがって、取引等の時に、適宜、作成し、「仮に」時期を逸した場合は、事後的な「確認書」「覚書」等としてあえて証拠力を弱める必要があります。
税務調査を意識した普段からの証拠保全においては、租税法を確認→必要な事実を確定する→その事実に関する証拠の保全を検討、というプロセスをとります。ここでは民法、会社法等々も当然知っておくべき必要があります。
最後に課税要件を意識した文書作成のポイントを列挙します。実践論です。
・税務調査で誤解を招かないように契約書は取引内容を正確に反映させます。
・契約書の細部が問われることが非常に多いため、課税リスク回避の観点から契約書はできるだけ詳細な文言まで記載します。
・契約書とその他の文書(インボイス、議事録、メール、社内SNS)との間に齟齬がある場合、信憑性が疑われます。平仄
を合わせてください。
・過去の裁決や裁判例は決め手となった証拠が頻繁に確認できます。それらをもとに、そもそもどこが争点になりやすいかについて当初から確認しておきます。
(1)反証について
題材として反証について当局がどのように理解しているかを確認します。
当局は、簿外経費等は、その存在を合理的に推認させるに足りる程度の具体的な反証を行わない限り、当該簿外経費等は存在しないとの事実上の推定が働く。
としています。
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