社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~㊴
2024/11/29
2)
イ これを本件についてみるに、前提事実及び弁論の全趣旨によれば、①亡乙らは、本件老人ホームに入居した平成17年4月16日から本件相続の開始の日である平成18年12月9日までの約1年8か月の間、亡乙が入院のために外泊をしたほかに外泊をしたことはなく、専ら本件老人ホーム内で日常生活を送っていたこと(前提事実(2)カ、キ)、②亡乙らは、平成17年2月以降、両名ともに介護を必要とする状況となったところ、本件家屋において原告及び訴外丁の介護を受けて生活することが困難であったことから、終身利用権を取得した上で本件老人ホームに入所したもので、その健康状態が早期に改善する見込みがあったわけではなく、また、本件家屋において原告等の介護を受けて生活をすることが早期に可能となる見込みがあったわけでもなかったのであって、少なくとも相当の期間にわたって生活することを目的として本件老人ホームに入居したものであること(前提事実(2)エ、別紙3「本件入園契約(要旨)」記載1、2、4)及び③本件老人ホームには、浴室や一時介護室、食堂等の共用施設が備わっており、本件居室には、ベッドやエアコン、トイレ等の日常生活に必要な設備が備え付けられていた上、亡乙らは、本件老人ホーム内において、協力医療機関の往診を受け、あるいは、介護保険法等の関係法令に従い、入浴、排せつ、食事等の介護、その他の日常生活上の介助、機能訓練及び療養上の介助を受けることができたもので、本件老人ホームには、亡乙らが生活の拠点として日常生活を送るのに必要な設備等が整えられていたこと(※下線筆者)(前提事実(2)エ、同別紙記載4、5、7)が各認められる。
以上からすれば、④亡乙らが、本件老人ホームに入居した後も、本件家屋に家財道具を置いたまま、これを空家として維持しており、電気及び水道の契約も継続していたこと(前提事実(2)ク)を考慮しても、(※下線筆者)本件相続の開始の直前における亡乙らの生活の拠点が本件老人ホームにあったことは明らかというほかない。
ウ 以上のとおり、本件相続の開始の直前において、亡乙らの生活の拠点が本件家屋にあったと認めることはできないから、本件家屋敷地が本件特例に規定する被相続人等の「居住の用に供されていた宅地」に当たるということはできない。したがって、本件家屋敷地について、本件特例を適用することはできない。
(証拠)居住の実態
前問と同様、社会通念=常識=経験則からでの実態判断がなされます。水道光熱費の使用状況や家財の有無等々で確認されることも同様になります。
相続税法21条の3第1項2号において、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」は贈与税の課税価格に算入しないこととされています。
老人ホームの入居金に関しては、被相続人の状況、老人ホームの環境、金額、返還金の有無などを契約書や相続人へのヒアリングにより、確認した上で当局調査対応のエビデンスの事前準備が必要です。
重要情報1
【贈与財産の範囲/老人ホームに係る入居一時金の返還金請求権】
有料老人ホームの入居契約に基づき返還金受取人(審査請求人)が取得した入居一時金に係る返還金請求権に相当する金額の経済的利益は、相続税法第9条でいう「みなし贈与」により取得したものとした事例(平成25年2月12日裁決)(TAINSコードF0-3-354)
〔事案の概要〕
入居契約のみをもって、被相続人と請求人との間に入居一時金に係る返還金の返還を請求する権利を贈与する旨の死因贈与契約が成立していたと認めることはできないし、その他当審判所の調査の結果によっても、相続開始時より前に、当該当事者間でその旨の死因贈与契約が成立していた事実や、被相続人がその旨の遺言をしていた事実を認めることはできないものの、①請求人の預け金があったとは認められないこと、②入居一時金の原資は被相続人の定期預金の一部であると認められることからすれば、実質的にみて請求人は、第三者(請求人)のためにする契約を含む入居契約により、相続開始時に、被相続人に対価を支払うことなく、同人から入居一時金に係る返還金の返還を請求する権利に相当する金額の経済的利益を享受したというべきである。
したがって、請求人は、当該経済的利益を受けた時、すなわち、相続開始時における当該利益の価額に相当する金額を被相続人から贈与により取得したものとみなす(相続税法第9条)のが相当である。
〔当事者の主張〕
○納税者の主張
原処分庁が申告漏れであるとした本件返還金は、請求人が本件被相続人に預けていた金員(以下「本件預け金」という。)について清算したものであるから、請求人に帰属する財産であり、本件相続税の課税価格に算入されるべきものではない。
○課税庁の主張
本件入居一時金は、本件被相続人名義の定期預金を原資とするものであるところ、当該定期預金は、平成19年10月12日に満期償還された本件被相続人名義の割引金融31,000,000円を原資とするものであり、同21年6月23日、当該定期預金を解約した金員の中から本件会社名義の普通預金口座に振り込まれたものであるから、本件返還金は、本件被相続人の相続財産として、本件相続税の課税価格に算入されるべきものである。
〔判断〕
被相続人がA社と締結した介護型老人ホームの入居契約では、入居者は自分が死亡した場合の入居一時金の返還金の受取人1名を定めることとした上で、入居者が死亡した場合、A会社は上記返還金受取人に対して返還金を返還すこととする条項が存するが、入居契約には、入居者が死亡した場合に、返還金受取人となっていない入居者の相続人に返還金を返還することを可能とする条項は存しないことに照らすと、入居契約に存する上記返還金受取人に関する条項は、返還金の返還を請求する権利者を定めたものというべきである。
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