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スキルアップ税務

社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~㊸

2025/02/28

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(3) 評価通達205「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」の解釈

 評価通達205の「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」とは、同通達205(1)ないし(3)の事由と同程度に、債権の回収の見込みがないか、又は著しく困難であると客観的に明白に認められるときをいうものを解すべきである。
 本件は評価通達の解釈及び該当性が争われているところ、通達は、国民に対して拘束力を持つ法規ではなく、裁判所もそれに拘束されません。
 したがって、法律上の主張に際しては、まずは法令の規定のみからどのようなことがいえるかを検討し、その上で、通達の定めを用いる場合には、飽くまでもその内容が法令に適合することを論証する必要があります。
 本件における裁判所の判断過程も上記(1)のとおり、まず相続税法の規定を解釈しています。そこで、租税平等主義等を根拠に、原則として、評価通達が適用される判断枠組みを示し、(2)において評価通達の合理性を判断した上で、(3)のとおり評価通達の解釈を行っています。

2 争点2に対する裁判所の判断過程

(1)裁判所に認定事実

1 本件会社は、平成17年6月期ないし平成23年6月期における経常利益の平均は約83万円の赤字に陥っているものの、この間においても営業を継続し、同期間において、平均1,905万円の売上げを上げており、本件相続開始時を含む平成23年6月期においても約1,727万円の売上げを上げていること。

2 本件相続開始時を含む事業年度である平成23年6月期以前において、金融機関から継続的に新たな融資を受けていたこと。

3 本件相続開始時現在において、本件会社に対して会社更生手続などの法的な処理が行われていたものではないこと。

4 本件会社の平成17年6月期ないし平成23年6月期における債務超過額は、約5,743万円ないし約6,386万円で、毎期債務超過の状態が続いていたものの、金融機関に対する返済は滞っていなかったこと。

(2)裁判所の判断

 本件会社は、被相続人の相続開始時において、営業を継続していた上、債権者に対する返済が遅滞又は停止していたなどの事実は認められないから、本件会社が、経済的に破綻していることが客観的に明白で、本件債権の回収の見込みがない又は著しく困難であると確実に認められるものであったとはいえず、本件債権について、「その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」に当たるとはいえない。

〇国税訟務官室からのコメント

1 はじめに

 調査において、国側と納税者の間で法律や通達の解釈が異なるとき、納税者から裁判例を根拠に示された場合、調査担当者は、納税者の主張が正当であると早合点してしまうことがあるかもしれない。

 しかし、本件のように、同じ法令等の解釈について判断の異なる裁判例が存在するケースがあるので、納税者の解釈の根拠が裁判例であっても、その裁判例の射程が及ぶか否か等を判断し、さらに、国側の主張の根拠となる裁判例がないかを確認することが肝要である。(※下線筆者)シリーズ個人編、シリーズ法人編でも検討していますが、過去の裁判例は先例をいえるものがあり、当局もそれを意識していれば、その裁判例は抗弁となりえます。これは調査対応時点で用意をするよりも当初取引時に用意すべきものです。一方、当局解説にあるように、当該裁判例が個別具体的なものやいわゆる限界事例といわれるものに関しては、前者については結果として事実認定に着地しますし、後者については原則反論材料なりえません。原始取引時に裁決・裁判例もセットで用意することは証拠化として重要ですが、当該裁決・裁判例が先例を有するか(当局までも拘束できるか)は別途、個別に検討する必要があります。

 以下では、本件において納税者側と国側がそれぞれ解釈の根拠とした裁判例を紹介する。

2 評価通達205の「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」の解釈について(争点1)判断された裁判例

(1)弾力的に解した裁判例【納税者側が主張の根拠とした裁判例】

イ 名古屋地裁平成16年11月25日判決評価通達205の(1)ないし(3)の事由が貸付金債権等の実質的価値に影響を及ぼすと考えられる典型的な要因であることは否定できないが、その実質的価値に影響を及ぼす要因は、ほかにも多種多様なものが考えられ、必ずしも法的倒産手続や任意整理手続などが実施されておらず、かつ営業も継続しているような場合であっても、貸付金債権等の実質的価値が額面金額に満たない事態は存在する。(中略)そうすると、(「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」とは)(1)ないし(3)の事由に準ずるものであって、それと同視し得る事態に限り、債権額の全部又は一部を評価額に算入しないとする扱いは相当とはいえず、仮に同通達205の趣旨がそのようなものであるとするならば、その合理性に重大な疑問を抱かざるを得ない(このような同通達205の厳格な適用によってのみ、租税公平主義が実現されるとの立論に与することはできない。)

 したがって、(「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」とは)上記(1)ないし(3)の事由に準ずるものであって、それと同視し得る事態に当たらない場合であっても、貸付金債権の回収可能性に影響を及ぼし得る要因が存在することがうかがわれる場合には、評価時点における債務者の業務内容、財務内容、収支状況、信用力などを具体的総合的に検討した上で、その実質的価値を判断すべきものである。

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