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社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~66

2026/01/27

 さらに、ひとまず贈与税の申告書を提出し、後に判決において本件贈与が無効とされた場合には更正の請求をすることが可能であったこと(前記「裁判所の認定判断」の2)を併せ考慮すれば、「別件訴訟において本件贈与の撤回が実質的に主張されるなどしたことによって本件贈与の効力が未確定の状態にあると判断したXには落ち度がある」と評価したものである。

4 参考裁判例について

 相続税の過少申告加算税に関する判例ではあるが、最高裁平成11年6月10日第一小法廷判決は、ある財産が相続税の賦課財産に属する可能性がないわけではないが、その可能性が小さいなど具体的な事情によっては、これを期限内申告に含めなかったことについて「正当な理由」が認められる余地もあるとの考え方に立ち、その要件を次のとおり判示している。

 相続財産に属する特定の財産の計算の基礎としない相続税の期限内申告書が提出された後に当該財産を計算の基礎とする修正申告書が提出された場合において、当該財産が相続財産に属さないか又は属する可能性が小さいことを客観的に裏付けるに足りる事実を認識して期限内申告書を提出したことを納税者が主張立証したときは、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるものとして、同項の規定が適用されるものと解すべきである。本判決では、当該最高裁判決が示した「正当な理由」が認められるための要件について、「当該財産が相続財産に属さないか又は属する可能性が小さいこと」の部分を「本件贈与が無効であるか又は有効である可能性が小さいこと」に置き換えた上で、本件において、これに対応する「客観的に裏付けるに足りる事実」が存在したか否かを判断したものと考えられる21。

 なお、当該最高裁判決では、どの程度の具体的な主張立証がなされれば、「相続財産に属する可能性が小さい」となるかは、直接判示されていない。しかし、同判決は、①相続開始時点において相続財産である不動産に登記が会社名義に移転されており、既に被相続人名義ではなくなっていたこと及び②相続人らは期限内申告に際して、遺言書に当該不動産の記載はあるが係争中であり相続財産に属することが明らかになった時点で申告する旨を税務職員に告げていたことなど、当該事件において相続人らが主張したこれらの事実のみでは「正当な理由」があったとするには足りないと判断していることから、「正当な理由」が肯定される例は、かなり減点されるものと思われる。

5 最後に

 贈与の当事者間でその贈与の効力が裁判で争われていた場合に、当該受贈者が当該受贈財産を課税財産に含めずに贈与税の申告をし、または、贈与税の期限内申告書を提出しなかったことについて「正当な理由」の有無を判断するにあたっては、本判決が判示した、「贈与が無効であるか又は有効である可能性が小さいことを客観的に裏付ける事実」が存在したか否かを検討する必要があり、その上で、「真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、無申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になるもの」であったかを判断すべきである。

 したがって、調査においては、贈与の前後における当該贈与財産の管理及び運用の状況、当該受贈財産から生じる利益の受領状況等を確認することはもちろん、別件の訴訟における納税者の主張及びその証拠がどのようなものであるかを確認することも重要である。

 なお、別件の訴訟における事件記録については、照会文書作成システムから「民事事件記録閲覧(謄写)申請書」を作成して裁判所に申請すれば、申請から閲覧まで2週間程度かかるものの各裁判所で閲覧及び謄写が可能である。

 「なお、当該最高裁判決では、どの程度の具体的な主張立証がなされれば、「相続財産に属する可能性が小さい」となるかは、直接判示されていない。」とあることから事実認定に着地します。このとき、「①(筆者番号付す)贈与の前後における当該贈与財産の管理及び運用の状況、②(筆者番号付す)当該受贈財産から生じる利益の受領状況等を確認することはもちろん、③(筆者番号付す)別件の訴訟における納税者の主張及びその証拠」の確認の重要性が問われています。

 ①、②については先述において詳細検討済です。③について、別件訴訟で納税者が贈与があったと主張している、すなわち当事者では贈与の意思の合致があったと主張しているにもかかわらず、では、判決が確定するまでは当該主張が通るか分からないので申告しない、では矛盾しているといえます。原則に従いいったん申告、別件訴訟の結果次第で更正の請求、修正申告をするのが無難です。この場合、③まで当局は確認するため、③での証拠(判決未確定)が逆に納税者主張が通らない要因になりえます。③がある場合、原則通りの申告をすべきか(又はしないものか)との一貫性がなければならないことになり、証拠としての別件訴訟資料は当該一貫性に従っているかを確認することになります。

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