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スキルアップ税務

社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~㉑

2024/02/15

1)

 税務調査等に対応するためのエビデンスとは、外部によって作成された外部証拠資料と、本人が作成に関わった(法人の場合、当該法人が主に作成に関わった)内部証拠資料とに大別されます。そして、証拠資料は、一般的に内部証拠資料より外部証拠資料のほうが疎明力が高い、証拠能力が強いといわれます。

 内部証拠資料は証明力に関して納税者自身により作成されるという点で弱いといえますが、当該証拠は、納税者自身の「判断」を主張する手段として活用することができます。そのため、税務調査等における納税者の説明の方法いかんによっては、外部証拠資料より主張力の点では高い場合も十分にあり得ます。すなわち、証拠力としては外部証拠資料のほうが高いことは確かですが、当事者の主張は内部証拠資料のほうで意思表明をすることができるということです。

 税務調査等において、エビデンスは事実関係を明らかにする手段のひとつです。事実関係に係る説明の点で、納税者側においても当局においても活用されることになり得ます。納税者が現場の調査に対応する際のエビデンス作成、整理、主張に係る最大のポイントは、当局担当者に対し、「この現場で処分をしたところで、国税不服審判所や裁判所などの係争機関に出れば勝てない可能性が高い」と思わざるを得ないような説得力が十分にある資料を常日頃から用意しておくことです。

 税務調査等の連絡が来てから準備をしても手遅れです。多くの資料はいわゆるバックデイトで作成することは困難であり、また、事実関係や時系列がずれてしまうことが往々にしてあるからです。そこで日頃からエビデンスを整理しておく必要性は極めて高いことになります。

 このように国税不服審判所や裁判所で仮に係争になったとした場合の事実認定に係るレベルと同等のレベルの事実関係の主張・整理が極めて重要となります。そのため、本書では過去の裁決、裁判例や国税情報における「当局の証拠の使い方」を適宜参照しています。何がエビデンスとしての決定打となったかを検証することは実務において必要不可欠です。

 証拠の有無、証明力、自己の主張について、どこまでエビデンスの裏付けをもって立証できるか、上記の資料をも順次検証し、それを用意しておけば、すなわち、これらを実務でそのまま活かせば、当局の調査に十分対応できます。

 一方で、納税者が結果として勝利したとはいえ、それは周辺の関係事実に関しての主張の積み重ねが認められた結果論にすぎないという、厳しい評価もできる裁決・裁判例も少なからずあります。しかし、原則として、証拠がなくても周辺事実の積み重ねを丁寧に説明、主張することで納税者の考え方、主張がいつでも認められるとは限りません。不遜な言い方かもしれませんが、それは少々考えが甘いと言わざるを得ません。

 エビデンスの事前準備こそが納税者の主張を強める大きな手段のひとつと断言できます。

(1)直接証拠と間接証拠

イ 直接証拠

 直接証拠とは、法律効果の発生に直接必要な事実(主要事実、要件事実、直接事実)の存否を直接証明する証拠をいいます。例えば、弁済の事実を証明するための受領書や契約締結の事実を証明するための契約書等をいいます。
 課税要件事実を証明できる証拠という観点からすれば、直接証拠とは課税要件事実を推認することなどを要せず直接に証明できる証拠を指します。

ロ 間接証拠

 間接事実(主要事実の存否を経験則上推認させる事実)又は補助事実(証拠の信用性に影響を与える事実)の存否に関する証拠です。間接的に主要事実の証明に役立つ証拠をいいます。 
 例えば、貸金返還請求訴訟において、金銭消費貸借契約が締結された事実(主要事実)そのものの事実を借主が否認した場合、当時借主が金に困っていた事実や借主には他の借金があり当時その借金の弁済をしていた事実は間接事実であり、これらの事実を証明するための証人は間接証拠に当たります。また、証人の証言内容の信頼性を明らかにする補助事実として、証人の記憶力・認識力を明らかにする鑑定なども間接証拠です。
 なお、当局調査においては代表者の聴取内容を記録した聴取書等々はその内容いかんによって上記のいずれかに分類されます。課税要件事実を証明できる証拠という観点からすれば、間接証拠とは、課税要件事実を直接証明できないが、間接的に課税要件事実の証明に役立つ証拠を指します。

2)

(2)弁論の全趣旨と事実認定

イ 弁論の全趣旨

 民事訴訟において、証拠調べの結果以外の口頭弁論に現れた一切の資料・状況をいい、当事者・代理人の弁論(陳述)の内容・態度・時期、釈明処分の結果などが含まれます。

ロ 事実認定

 事実認定は、自由心証主義(民事訴訟法247条)の下で、弁論の全趣旨と証拠調べの結果を斟酌して、経験則(経験から帰納的に得られた事物に関する知識や法則であり、一般常識的な経験則から専門科学的知識としての経験則まで、多岐にわたります。)を適用して判断されるものです。

(3)主要事実の認定における直接証拠と間接証拠の位置付け

 訴訟において主要事実(法律効果の発生に直接必要な事実)の認定は、直接証拠のみでされることは少なく、一般的に、間接証拠との総合によってされる場合が多いといえます。
 間接証拠によって事実を認定する場合は、間接証拠から間接事実を認定した上で、その間接事実に経験則を当てはめて「推認」していく過程が不可欠であるのに対し、直接証拠によって認定する場合は、そのような過程は必要ありません。
 しかし、だからといって、一般論として、直接証拠による認定のほうが心証の程度が高いということになるわけではありません。
 ちなみに、最高裁昭和43年2月1日第一小法廷判決によると、事実認定に用いられる「推認」の用語法は、裁判所が、証拠によって認定された間接事実を総合し経験則を適用して主要事実を認定した場合に通常用いる表現方法であって、証明度において劣る趣旨を示すものではないものとされます。

(4)税務調査における(係争を意識した)事実認定

 税務調査において、係争を意識した資料を作成することは先述のとおりですが、提出された事実(主要事実、間接事実、補助事実)について、当事者がその存否を争った場合、税務調査では税務調査官とのやりとりにおいて、係争では係争機関が事実を認定する必要があります。
 裁判所の場合、訴訟当事者間において争いのない事実に加え、証拠(裁判所が採用した直接証拠、間接証拠)や弁論の全趣旨によって認定事実を確定し、当該事実に法令を適用して判断をしていきます。
 訴訟当事者にとっては、自らにとって有利な事実認定を正当化するに足りる強力な証拠を探索・収集し、それを証拠として裁判所に提出し、その事実の存在について裁判官を説得することが、訴訟を勝訴に導く上で重要となります。

(5)税務調査において当局が意識している証拠資料の収集・保全を行う際に留意していること

 訴訟当事者は、自己にとって有利な事実の存在について、証拠(直接証拠・間接証拠)をもって裁判官を説得することが、訴訟を勝訴に導く上で重要であることから、税務調査に当たっては、係争を見据えた次のような点について留意します。 
 また、やみくもに自己に有利な事実(課税要件の充足を肯定する証拠)のみを集めればよいものではなく、自己に不利な事実(課税要件の充足を阻害する証拠)が認められる場合には、当該事実を踏まえてもなお課税を相当とすることができるか否か、慎重に検討を行うことが必要とされています。

 TAINS収録の「その他行政文書 調査に生かす判決情報076」を検証します。 
 当該資料中には、次のように書かれています。

○ 課税要件事実は、間接事実を積み上げることによっても立証できる。
→ 「あるべき事実がない」ということも重要な間接事実

○ 課税要件事実の推認は、「有利な間接事実」と「不利な間接事実」の両方を検討する必要がある。
→ 「不利な間接事実」を否定できるだけの間接事実(証拠)が必要

○ 間接事実による推認は、常に覆される可能性がある。
→ 間接事実は種類と数が重要

まず、事実認定の基礎知識として、次をご覧ください。

1 裁判官による事実の判断

 裁判において、裁判官は、法規上の権利関係の存否を判断するに当たって、この法規上の権利を発生させるのに必要な法津要件に該当する具体的事実(課税要件事実)の存否を判断し、その認定した事実について、適用すべき法規の存在やその内容の解釈をもとに法的判断を行い、結論(判決)を出します。元裁判官によれば、次のような検討を経て事実認定を行っているようです。

① 事実認定の対象となる事実を確定する(争点の確定)。
② 証拠から課税要件事実や間接事実を認定できるかどうかを検討する。
③ 間接事実から課税要件事実を推認する方法を検討する。
④ 裁判官として課税要件事実が認定できるかどうかを検討する。

2 間接事実による課税要件事実の推認方法

 裁判官は、上記1のような検討を経て課税要件事実の存否を判断していますが、いつも課税要件事実を直接に認定できる証拠がある(②→④)とは限らず、間接事実の存否が最重要の争点となることも少なくないようです。このような場合、裁判官は、②で認定した間接事実に、「人間は、このような場合、通常、このような行動をする(しない)」といった経験則を適用し、課税要件事実を推認することが多いようです。

 ただし、経験則は常に例外(推認を妨げる事情)を伴うものであるため、間接事実による推認は、常にその推認が覆される可能性があることを否定できないとされています。

 

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