社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~㊹
2025/03/11
1)
ロ 名古屋高裁平成17年6月10日判決(上記イの控訴審)
債権回収の可能性や程度の検討は、まず、(中略)債権の回収可能性に影響を及ぼしうる要因の存否を、評価時点までの客観的指標、特に、会計帳簿の記載や外形的に明らかな事実を中心に行い、そのような危惧を抱かせる事情が存しないと判断される場合には、これに反して債権の回収可能性に影響を及ぼすべき要因が存在することが的確に窺えないかぎりは、(中略)、評価時点における債務者の業務内容、財務内容、収支状況、信用力などを具体的総合的に検討した上で、その実質的価値を判断するまでもなく、額面どおりの時価であると評価することが相当(※下線筆者)である。
(2)厳格に解した裁判例【国側が主張の根拠とした裁判例】
イ 東京高裁平成21年1月22日判決
評価通達205は、同通達205(1)ないし(3)の事由のほか、「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」も同通達204による評価の例外的事由として掲げているが、これが同通達205(1)ないし(3)の事由と並列的に規定されていることは規定上明らかである。このような同通達205の趣旨及び規定振りからすると、同通達205にいう「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」とは、同通達205(1)ないし(3)の事由と同程度に、債務者が経済的に破綻していることが客観的に明白であり、そのため、債権の回収の見込みがないか、又は著しく困難であると確実に認められるときであると解すべきであり、同通達205(1)ないし(3)の事由を緩和した事由であると解することはできない。(※下線筆者)
ロ 東京高裁昭和62年9月30日判決(最高裁昭和63年3月24日判決において原審維持)
評価通達205では、「貸付金債務等の評価を行う場合において、その債務金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価格に算入しない。」としており、右に「次に掲げる金額」には、債務者が手形交換所において取引停止処分を受けたとき、会社更生手続、和議の開始の決定があつたとき、破産の宣告があつたとき等の貸付金債務等の金額及び和議の成立、整理計画の決定、更正計画の決定等により切り捨てられる金額等を掲げている。すなわち、同通達205の「次に掲げる金額に該当するとき」とは、右に示したように、いずれも、債務者の営業状況、資産状況等が客観的に破たんしていることが明白であつて、債務の回収の見込みのないことが客観的に確実であるといいうるときをさしているものということができる。したがつて、同通達205の「その他回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」というのは、右に述べた「次に掲げる金額に該当するとき」に準じるものであつて、それと同視できる程度に債務者の営業状況、資産状況等が客観的に破たんしていることが明白であつて、債務の回収の見込みのないことが客観的に確実である(※下線筆者)といいうるときであることが必要であるというべきである。
ハ その他上記イ及びロと同旨の判断をしている裁判例
(イ)大阪高裁平成15年7月1日判決
(ロ)大阪高裁平成23年3月24日判決
(ハ)福岡高裁平成28年7月14日判決
(3)小括
評価通達205の「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」の解釈について、納税者側が主張した解釈を示している裁判例は、上記2(1)イの名古屋地裁平成16年11月25日判決(以下「名古屋地裁判決」という。)及びその控訴審である上記同ロの名古屋高裁平成17年6月10日判決(以下「名古屋高裁判決」という。)のみである。他方で、国側が主張の根拠とした東京高裁平成21年1月22日判決は、それと同旨の判断をしている裁判例として上記(2)ロ及びハのとおり多数存在する。
3 名古屋地裁判決について
(1)名古屋地裁判決の解釈と判断(結論)
同判決は、評価通達205の「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」の解釈について、国側が主張する解釈よりも弾力的にとらえ、「(評価通達205)(1)ないし(3)の事由に準ずるものであって、それと同視し得る事態に当たらない場合でも、貸付金債権の回収可能性に影響を及ぼし得る要因が存在することがうかがわれる場合には、評価時点における債務者の業務内容、財務内容、収支状況、信用力などを具体的総合的に検討した上で、その実質的価値を判断すべき」(※下線筆者)と判示している。
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