社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~67
2026/03/03
下記国税庁通達の「5」では、①「過誤又は軽率」により登記等が行われ、かつ②それが「取得者等の年齢その他により確認できるとき」は、一定の要件のもと、贈与が無かったものとして取り扱う、とされています。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/640523/01.htm
また、上記通達の「11」及び、以下の「通達の運用について」の「4」によると、合意解除による取消し等の場合、原則として贈与税課税がなされるが、「著しく負担の公平を害する結果となると認める場合に限り、当該贈与はなかったものとして取り扱うことができる」とされています。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/640704/01.htm
下記は、「通達5」の適用が否認された事例です。しかし、申告期限までに戻されていれば、通達の適用ができると読めます。
〇東京地裁昭和39年(行ウ)第72号、昭和36年度贈与税無効確認請求事件(棄却)TAINSコードZ059―2541
〔判示事項〕
⑴ 贈与税申告後3年を経過した後に贈与不動産の登記名義を贈与者に戻した場合について、国税庁長官通達昭和39年直審(資)22⑸の適用はないとされた事例
⑵ 贈与税申告の無効を主張しうべき特段の事情がある場合に該当しないとされた事例
判決年月日 S45―03―23
〔本 文〕
原告は、右のごとく建物の登記名義が参加人に戻されている以上、税法上は、贈与がなかったものとして取り扱うべきであると主張し、その根拠として昭和39年直審(資)22⑸の通達を引用しているが、同通達は、被告主張のごとく、他人名義により不動産等を取得したことが過誤に基づき又は軽そつになされたものであり、かつ、これらの財産に係る最初の贈与税の申告若しくは決定又は更正の日前にこれらの財産の名義を取得者の名義に戻した場合に限り、これらの財産について贈与がなかったものとして取り扱う旨を示達したものであるが、成立に争いのない甲第5号証によって明らかなごとく、原告が建物の登記名義を参加人に戻したのは、前記贈与税の確定申告のなされた後で、しかも、それより3年余も経過してからのことであるから、到底、右通達の適用を受けえないものというべきである。
さらに下記判決においても、納税者は贈与税が課税されないと誤信していたと主張していますが、法定申告期限を過ぎていることを理由に、錯誤は認められないと判断されています。
〇高松高裁平成17年(行コ)第4号賦課決定処分等取消請求控訴事件(棄却)(上告)平成18年2月23日判決 TAINSコードZ256-10328
【要素の錯誤と重大な過失/出資口の低額譲渡】
〔判示事項〕
⑴ 納税者らは、有限会社の出資口の売買代金額がその実際の価値に見合った適正な金額であり、納税者が贈与税を課されることはないと誤信していたからこそ売買契約を締結したこと、また、当該売買契約において、出資口の実際の価値及び納税者が贈与税を課されないことが納税者らにとって重要な要素であったことなどに照らせば、納税者らの間では、当該売買契約の動機に関わる、納税者が多額の贈与税を課されないとの認識が、少なくとも黙示的に表示されているといえ、納税者らの誤信は売買契約の意思表示についての錯誤に当たるとされた事例(原審判決引用)
⑵ 納税者らは、有限会社の出資口の売買契約を締結するに当たり、売買代金額や贈与税を課されるか否かについて、税理士等の専門家に相談するなどして十分に調査、検討をすべきであったにもかかわらず、税理士等の専門家に相談するなどしなかったという点において、過失のあることは否定できないが、出資口の売買代金額等につき一応の調査、検討はしているのであるから、当時の納税者らの置かれていた立場や年齢をも考慮すると、納税者らの上記懈怠が著しく不注意であって重大な過失であると認めることはできないとされた事例
⑶ 錯誤によって何らかの契約を締結した者が、錯誤に気づかないうちに法定申告期限を過ぎてしまった場合に、課税庁に対して、当該契約の錯誤無効を主張し得ないとすれば、民法95条が錯誤無効により表意者を保護しようとした趣旨が没却されることになり、不合理というべきであって、そのような場合には、租税法律関係の安定の要請よりも表意者保護を優先すべきであるとの納税者らの主張が、安易に納税義務の発生の原因となる法律行為の錯誤無効を認めて納税義務を免れさせたのでは、納税者間の公平を害し、租税法律関係が不安定となり、ひいては申告納税方式の破壊につながるから、納税義務者は、納税義務の発生の原因となる私法上の法律行為を行った場合、当該法律行為の際に予定していなかった納税義務が生じたり、当該法律行為の際に予定していたものより重い納税義務が生じることが判明した結果、この課税負担の錯誤が当該法律行為の要素の錯誤に当たるとして、当該法律行為が無効であることを法定申告期間を経過した時点で主張することはできないと解するのが相当であるとして排斥された事例
⑷ 国税通則法施行令6条1項2号(更正の請求)にいう「やむを得ない事情」とは、例えば、契約の相手方が完全な履行をしないなどの客観的な事情に限定されるべきであって、錯誤のような表意者の主観的な事情は含まれないと解するのが相当であるところ、本件の場合、納税者らは、有限会社の出資口の売買契約の締結により多額の贈与税が課されることにつき錯誤に陥っていたものであって、もとより納税者らの主観的な事情に基づくものであるから、国税通則法23条2項3号、同法施行令6条1項各号に該当しないことが明らかであるとされた事例
⑸⑹ 省略
申告期限前の錯誤に関しては認められると思われます。この際上掲通達の要件を充足しているかについて所轄税務署に確認すべきです。なお「合意による取り消し」を理由として取消登記を行った場合は、通達の「5」ではなく「11」及び「通達の運用について」の「4」が適用されることになります。この場合、原則として贈与税課税になり、「例外的に」税務署長が認めた場合は非課税ということになります。
ここで問題になるのは「合意による取り消し」であっても取消登記さえ贈与税申告前に完了していれば、「非課税」と扱われるかという論点です。
この点、「合意による取り消し」であれば、「過誤に基づき」ではないため、税務署長が認めた場合に限られます。筆者自身の実例として(裁決・裁判例ではありません)親族間における不動産の贈与の取り消しについて、贈与税の申告期限「後」でしたが、税務署に相談したところ、贈与税を課税しないとの結論を得たことがあります。ただし、(今回の贈与は不動産であったので)「所有権更正登記」又は「真正な登記名義の回復」による登記を行い、登記簿謄本を送付するよう求められています。
※伊藤俊一先生の講義は『日税ライブラリー研修』でご受講が可能です。
『日税ライブラリー研修』の詳細・申込はこちら。最新の伊藤先生の研修はこちら。
