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「働くと年金が減るってホントですか?」在職老齢年金、改正でどうなる?

2025/08/06

働くと年金減るって、ホントですか?」

「在職老齢年金、改正でどうなるのですか?」

 そろそろ定年という方やシニアで働く方からは、このようなご不安のお声が多く聞こえてきます。

 労働力人口のうち65歳以上は13.4%(930万人)と、約7人に1人は働いて収入を得ていることになります。(内閣府「令和6年版高齢社会白書 令和5年労働力人口の推移」より)。

 働きながら給与と厚生年金を同時にもらっている場合には、在職老齢年金で年金が減額される場合があります。この見直しが年金制度改正で行われました。そこで、今回は在職老齢年金の見直しについて見ていきます。

■在職老齢年金とは?

 在職老齢年金とは、70歳未満の方が厚生年金に加入している場合や、70歳以上の方が厚生年金の会社に勤めた場合に、年金の一部または全額が支給停止となる制度です。支給停止となる金額は、厚生年金の額と給与や賞与の額(総報酬月額相当額)に応じて決められます。なお、基礎年金と加給年金は対象外です。

 この制度は、報酬のある方は年金制度を支える側に回っていただくという考え方に基づき、一定の賃金のあるシニアの方については、年金の給付を制限するという仕組みです。

■年金改正で、在職老齢年金はどう変わる?

 前回も見ましたが、年金制度改正の概要は以下のとおりで、在職老齢年金は②になります。まず、今回の改正ポイントを見ていきましょう。

《年金制度改正の概要》
出所:厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」をもとに筆者加工作成


出所:厚生労働省「在職老齢年金制度の見直しについて」

◆改正ポイント

 支給停止の基準額が62万円に引上げられることで年金が減額されにくくなります。結果、もらえる年金がアップする方が増えることになります。

 今回の改正は、年金を受給しながら働くシニアの方が、より多く働けるようにする見直し策です。

◆見直しで変わる方は?

 現在、厚生年金と賃金が月51万円(2025年度の金額)を超える方が変わります。働き方や昇給などで月51万円を超える方にも影響があります。

◆いつから、改正される?

 来年度の2026年4月からスタートします。

◆いくらに、改正される?

 支給停止の基準額が、現在51万円から「62万円」に引上げられます。

◆どのくらい、変わる?

 改正でどのくらい変わるのか、以下の例をもとに見ていきます(上記、厚生労働省「在職老齢年金制度の見直しについて」をもとに筆者作成)。

【例】賃金(ボーナス含む年収の1/12)45万円、厚生年金10万円の場合

 賃金45万円+厚生年金10万円=55万円

 現在の支給停止は2万円(支給総額53万円)、改正後は支給停止0円(支給総額55万円)となります。改正で2万円収入が増えることになります。

(現 在) 

支給停止のラインが51万円

55万円>51万円

超過額 55万円-51万円=4万円

超過額の半額が支給停止となるため、 

4万円÷2=2万円 が支給停止。

  ↓

(改正後) 

支給停止ラインが62万円に引上げ

55万円≦62万円 62万円以内

結果、現在支給停止されていた2万円も支給されます。

◆家計への影響は?

 今回の在職老齢年金の改正は、主にシニアのサラリーマン家計に影響があります。今まで支給停止されていた方は、月62万円までは支給停止されないため収入が増えます。また、その分働いてより賃金を増やすという選択肢もできます。ただし、税金が増える場合がありますので手取りは異なる場合があります。注意しましょう。

■在職老齢年金だけではない、雇用保険の調整も忘れずに 

 サラリーマンの方の場合、収入の基本は、現役世代は「給与」、シニアになると「給与+雇用保険+年金」、リタイア後は「年金」になります。

《図:サラリーマンの方の収入イメージ》



 60歳から65歳になるまでのサラリーマンの方の場合、次の調整があるので注意しましょう。

・65歳になるまでの老齢年金と雇用保険の「失業給付」は、同時に受け取ることができません。

・厚生年金の被保険者で、年金を受けている場合、雇用保険の「高年齢雇用継続給付」を受けるときは、在職老齢年金と加えて年金の一部が支給停止されます。

◆失業給付と年金の調整

 65歳になるまでの老齢厚生年金は、ハローワークで求職の申込みをした場合、実際に失業給付を受けたかどうかには関係なく、求職の申し込みをした月の翌月から受給終了まで、加給年金額も含めて年金の全額が支給停止されます。

◆高年齢雇用継続給付と年金の調整

 高年齢雇用継続給付とは、雇用保険の給付で、①雇用保険の被保険者期間が5年以上で、②60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者に対して、③賃金額が60歳到達時の75%未満に低下した場合に、最高で賃金額の10%に相当する額が支払われるものです。2025年3月までは最高15%でしたが、2025年4月から給付率が10%に引き下げられました。

 この高年齢雇用継続給付を受給すると、在職老齢年金に加えて、最高で賃金(標準報酬月額)の4%の年金が支給停止されます。

 
出所 日本年金機構「年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整」

■不明な点は、年金事務所で確認を

 老後のライフプランには、年金は欠かせません。一方で、実際に年金がいくらもらえて、在職老齢年金の金額がいくらになるか、わかりにくいというお声も少なくありません。その場合には、年金事務所で確認・試算されることをおすすめします。その際、過去の記録漏れがないかも、念のため確認されるとよいでしょう。また、家計全体を考えて、配偶者の方の年金もご一緒に確認しておかれることをおすすめします。次回も引き続き改正を見ていきます。

アドバイザー/中島 典子 税理士
社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー(日本FP協会 CFP®認定者・1級ファイナンシャルプランニング技能士)
公益財団法人日本数学検定協会 ビジネス数学インストラクター、住宅ローンアドバイザー
一般社団法人相続診断協会 相続診断士
【主な著書(共著含む)】
『会社が知っておきたい 補助金・助成金の申請&活用ガイド』(大蔵財務協会)
『ムダなく、ムリなく、かしこく 資産づくりのキホン』(清文社)
『定年前後の手続きガイド』(宝島社)、『金持ち定年、貧乏定年』(実務教育出版)など多数。

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