どう変わる? 非上場株式評価の行方
2026/07/24
2024年11月に会計検査院から「令和5年度決算検査報告(以下「検査院報告」という)」が内閣に送付され、この中で取引相場のない株式評価の問題が採り上げられた。主な指摘事項は次の通りである。
(1)類似業種比準価額は純資産価額と比べて相当程度低い水準である
(2)評価会社の規模区分が大きくなるほど類似業種比準価額の適用割合(Lの割合)が高くなり、株式評価額が相対的に低く算定される
(3)配当還元方式の還元率(10%)は近年の金利水準と比べて相対的に高い率で、それに基づいて算定される評価額は相対的に低くなっている
検査院報告を受けて、国税庁は、今年4月20日に「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(以下「有識者会議」という)」を立ち上げ、以後第2回が5月11日、第3回が6月4日、第4回が7月3日に開催された。
各回の配布資料及び議事要旨は国税庁のホームページ(※1)に掲載されているが、有識者会議委員の一人として、資料、議事要旨だけでは窺い知れない会議の内容を、私見を交えて紹介する。
(※1)https://www.nta.go.jp/about/council/kenkyu.htm#nai-hyoka
1. 有識者会議立上げの趣旨
有識者会議立上げの趣旨は「検査院の指摘を踏まえ、取引相場のない株式の相続税評価について、相続税法の時価主義の下、適正な評価制度の在り方を検討する」としている。評価見直しの方向性について、国税庁は次の4つを基本的な“観点”として、評価方法について幅広く検討を行うことを提案した。
(1)評価の“崖”の解消
異なる規模区分の会社間の株式評価の公平性確保、評価方式間のかい離排除
(2)評価額の「恣意性・操作性」の排除
株式圧縮スキームの排除、特例的評価の趣旨を踏まえた配当還元方式の見直し
(3)実務・学術上の進展を踏まえた「今日的観点」からの見直し
適正な還元率の見直し、企業の収益力等を反映した評価方法の採用、学術研究の進展や税務以外の企業評価の手法等も参考
(4)第三者への事業承継等の動向も踏まえた評価
M&Aによる企業価値評価を踏まえた検討、純資産価額方式における引当金の取扱いも含め、実務の取扱いを踏まえて検討
これに対して、日本商工会議所(以下「日商」という)は、5つ目の観点として「円滑な事業承継に資する評価」を加えるべきであると主張している。

さらに、国税庁は『客観的な「時価」としての評価の話と、税負担の在り方の話は分けて議論をするのが生産的』(第1回議事要旨)との立場で、有識者会議では評価問題だけを議論しようとしているが、日商は「円滑な事業承継の促進には評価と税制措置の両面からの支援が必要不可欠であり、一方的に評価方法のみを議論することには断固反対」(第3回提出資料)との立場をとっており、議論すべき範囲についての考え方が異なっている。
日本税理士連合会(以下「日税連」という)も、『株価評価と事業承継税制は実務上深く関連するため、別々ではなくそれぞれの趣旨を踏まえた「一体での議論」が不可欠』(第3回提出資料)との立場を取っている。この一体的な議論をすべきであるという考え方は、経済同友会による「非上場株式の相続税評価見直しに関する意見」(※2)など、関係する諸団体からも同趣旨の発言が行われている。
(※2)https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/uploads/docs/20260512a.pdf
2. 有識者会議における議論
第2回に渋谷委員、弥永委員、日本M&Aセンター、第3回に日商、日税連、櫻井委員が意見を述べ、第4回ではこれまでの議論に基づき国税庁が整理したものを元にして意見交換が行われた。
国税庁は、今回の見直しは評価の適正化を図ることが目的で増収を目指すものではなく、現行の評価方法が租税回避スキームの温床となっていることから評価体系全体を見直す必要があるとの考え方を示した。
第4回は、今までの議論を踏まえ、国税庁は意見を伺いたい事項として以下の6項目を挙げた。
①学術的研究やM&Aの評価方法も参考に、抜本的見直しも視野に検討することについて
②評価方式の一本化を検討することについて
③会社法における訴訟やM&A実務でも用いられなくなった類似業種比準方式の今後の在り方について
④純資産価額方式を基本的評価方式として維持せず、特定の評価会社の評価方式として存置することについて
⑤配当還元方式について、還元率・計算方法に加え対象株主の範囲や従業員持株会との関係を整理することについて
⑥特定の評価会社の範囲と評価方法、少なくとも資産管理会社を純資産価額方式で評価することについて
検討項目が多岐にわたったことに加え、現行の評価方法に関する委員間の考えの相違が明らかになったことから、各委員が意見を述べたに留まり、各項目について議論を尽くすには時間不足だった。
3. 今後の進め方・有識者会議の位置づけ
次回、国税庁は具体的な評価方法のたたき台を提示し、それを基に議論を本格化させることとなった。税負担への影響は評価方法が固まった段階でシミュレーションを行う考え方が示された。また、次回提示するモデルについては、純資産価額は下限とは考えていない旨の発言が国税庁からあった。
解説/税理士法人ゆいアドバイザーズ 代表・玉越賢治税理士
◎今後の有識者会議の議論や制度改正の動向につきましては、当サイトにて、玉越賢治税理士に引き続きご解説いただきます。