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税務の勘所Vital Point of Tax

『シャフク改革』で税理士に期待される役割

2016/11/04

 社会福祉法人制度を大きく変える新制度が、平成29年4月1日からスタートする。税理士には、社会福祉法人の会計税務顧問はもちろん、新たに義務付けられる評議員や監事としての役割も期待されている。そこで“シャフク改革”によるビジネスチャンスを整理してみる。


創業者一族の非課税相続貯金箱

 ある調査によると、社会福祉法人の9割近くを占める施設経営法人の内部留保額は平均で3.1億円に上るといいます。これらの社会福祉法人の中には数十億円以上の内部留保額を有する法人も稀ではありません。誰もが知るように、会社の場合、内部留保は株価に反映され、相続税の洗礼を受けることになります。そこで、相続税対策として株価を引き下げたくても簡単にはいかず、事業承継税制で納税猶予を受けたくても、なかなか要件に合わず適用を受けられないのが実情です。

 そこへ行くと、社会福祉法人はいくら内部留保があろうとも相続税が課税されることはありません。そのため、莫大な内部留保を有する社会福祉法人が創業者の親から子へ、またその親族へと承継され、社会福祉法人がそれこそ創業者一族の非課税相続貯金箱に使われながら、次第に巨大な社会福祉法人グループが形成されるようなことが公然と行われてきました。

 問題は相続税だけではありませんでした。いわゆる高齢者や障害者の介護事業は、社会福祉法人やNPO法人、公益法人などの非営利法人だけでなく、会社などの営利法人の参入も目覚ましい分野ですが、社会福祉法人以外の法人はすべて法人税等の課税を受けているのに、社会福祉法人だけが非課税とされてきました。そのため、「なぜ、社会福祉法人だけがそんなに優遇されなければならないのか?」、「みな同じ条件で競争するべきではないのか?」という批判が一気に噴出してきたのです。

待ったなしのシャフク改革

 今回の社会福祉法人改革は、こうした批判に対する社会福祉法人サイドからの一種の回答と読むことができるでしょう。その社会福祉法人サイドからの回答は、社会福祉法人が他の法人のように法人税等の課税を受けるのではなく、優遇税制に相応しい法人に改革して生まれ変わるというものでした。

 改革によって、社会福祉法人の公益性・非営利性を徹底し、社会福祉法人のあるべき姿を追求するというのです。その方法として具体的に挙げられたのは、次のようなことですが、本格的な実施は平成29年4月1日からとなっており、一部については平成28年4月1日から前倒しして実施されています。

①経営組織のガバナンスの強化
 議決機関としての評議員会を必置の機関とした他、一定規模以上の法人に会計監査人の設置を義務付ける。
②事業運営の透明性の向上
 財務諸表、現況報告書、役員報酬基準等を公表する。
③財務規律の強化
 内部留保の金額を「社会福祉充実残額」として計算し、社会福祉充実残額を社会福祉事業や公益事業に使うように社会福祉充実計画として提出する。
④地域における公益的な取り組みを実施する責務
 社会福祉事業及び公益事業を行うに当たって、無料または低額な料金で福祉サービスを提供することを責務として定める。
⑤行政の関与の在り方
 行政庁による指導監督の機能強化、国・都道府県・市の連携を図る。

今後は14万人以上の評議員が必要

 社会福祉法人は、経営組織の強化の一環として、必ず「評議員制度」を設けることとしました。そのためには、まず定款を変更して、法定機関としての評議員と評議員会を設置しなければなりません。その上で、理事の定数6名を超える数の評議員が必要ですので、7名以上の評議員を選任することとなるのですが、これは平成29年3月31日までに終わっていなければなりません。平成29年4月1日からは新しい評議員制度がスタートします。

 そこで、この評議員に誰がなるかですが、評議員は社会福祉法人の適正な運営に必要な識見を有する者のうちから選任することが法律に規定され、社会福祉法人の職員や役員、その親族関係者もなることはできません。

 全国には約2万の社会福祉法人があるので、ざっと14万人以上の評議員が必要になる計算ですが、明らかに不足すると思われており、評議員の候補に税理士が上がっているのは当然のことと思われます。なお、一定規模以下の社会福祉法人には、当面3年間は4人以上でOKとされています。

監事に求められる「財務管理の識見」

 社会福祉法人の役員は、評議員会によって理事6人以上、監事2人以上を選任することが求められます。理事は、社会福祉事業の経営に関する識見を有する者、事業の区域における福祉に関する実情に通じている者、法人経営施設の管理者などが必置とされ、各理事間の親族等特殊関係者は理事総数の3分の1以内とされています。

 また監事には、社会福祉事業について識見を有する者と財務管理について識見を有する者が含まれなければならないとされ、各役員との親族等特殊関係がある者は就くことができません。この監事に求められる財務管理について識見を有する者ですが、これは明らかに税理士、会計士などの会計専門家を想定しています。社会福祉法人の会計は、企業会計とは異なる面があり、社会福祉法人特有の決算書を作成しますが、会計専門家なら社会福祉法人会計基準をよく理解して対応すれば、社会福祉法人の財務管理について監事としての役割を果たすことはそう難しいことではありません。監事就任の依頼があれば、仕事や能力、経験の幅を広げるためにも、積極的に引き受けるべきだと思います。

社会福祉充実計画に対する意見

 これまで社会福祉法人は、内部留保について特に厳しい規制はありませんでしたが、改革によって不要な内部留保は社会福祉事業に使うことが求められるようになりました。

 不要な内部留保額である社会福祉充実残額は、前事業年度の貸借対照表の資産から負債を控除した残額から現に行っている事業を継続するために必要な額を控除して計算します。この社会福祉充実残額がある場合には、社会福祉法人は、社会福祉充実残額を現に行っている社会福祉事業や公益事業の充実に使うか、新規の社会福祉事業や公益事業の実施に使う社会福祉充実計画を作成し、評議員会の承認を受けた上で、行政に提出することが義務付けられています。行政の承認があって初めて社会福祉充実事業を実施することができるようになります。

 なお、社会福祉充実計画を作成するにあたっては、事業費および社会福祉充実残額について、税理士などの財務について専門的な知識経験を有する者の意見を聞かなければならないこととされています。

 日程的には、社会福祉法人は社会福祉充実計画を平成29年6月開催の最初の評議員会に提出して承認を受け、さらに6月中に行政に提出しなければなりませんから、そんなに時間的な余裕があるわけではありません。近隣の社会福祉法人から社会福祉充実計画についての意見を求められた場合、税理士として積極的に対応できるように、社会福祉法人の制度や会計について基本的な理解を培っておきたいものです。

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