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税務の勘所Vital Point of Tax

関与先から損害賠償の請求も!? 弁護士会からの照会と守秘義務

2016/11/02

弁護士法第23条の2に基づく「弁護士会照会制度」。これは、弁護士会が官公庁や企業などの団体に対して必要事項を調査・照会するものだ。照会を受けた場合、「原則として回答する義務がある」とされているが、税理士に顧客情報の開示が求められ、それに応じて情報を提供したところ、プライバシーの侵害で訴えられたケースもある。

 弁護士法第23条の2は次のように規定している。

 1.弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があった場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
 2.弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

 この弁護士会の照会に基づいて情報を提供したところ、それが「不法行為」だとして訴えられたケースがある。F税理士法人の代表を務めるA税理士は、B氏(原告・控訴人)から依頼を受け、平成15年分から平成21年分までの確定申告書を作成した(平成21年分については代理人から依頼)。その後、B氏が関係する別件訴訟が提起され、京都弁護士会はF税理士法人に対し、弁護士法第23条の2に基づき次のような照会を行った。

1 訴外税理士法人(同法人の所属税理士)において、控訴人の確定申告を行った、あるいは、関与されたことはありますか。
2 上記1において、あるという場合、その期間は、いつからいつまでですか(平成〇年から平成○年まで等)。
3 上記1において、あるという場合、確定申告を行った、あるいは関与された控訴人の確定申告書及び総勘定元帳の写しを回答書に添付願います(大量にある場合は直近10年分で結構です)」。

 
また、そこには「弁護士法第23条の2に基づく照会は、個人情報保護法令の保護除外事由にあたりますので、回答に際して、照会の対象である本人の同意を得ていただく必要はありません」と記載されていた。そして、F税理士法人は京都弁護士会に対し、控訴人の同意を得ることなく、①控訴人の確定申告を行っていたこと、②その期間は平成15年から平成21年までであることを回答した上で、③その期間の確定申告書及び総勘定元帳の各写し(平成21年分の総勘定元帳の写しを除く)をCD-Rの形式で提供した。このA税理士の情報開示に対し、B氏は「プライバシー権が侵害された」として裁判を起こしたのだ。


不法行為と判断した理由

 
一審の京都地裁では、A税理士の情報提供は不法行為ではないとされたが、二審の大阪高裁は、不法行為に該当するとの判断を下した。


 その理由として大阪高裁は、「23 条照会を受けた者は、どのような場合でも報告義務を負うと解するのは相当ではなく、正当な理由がある場合には、報告を拒絶できると解すべきである。正当な理由がある場合とは、照会に対する報告を拒絶することによって保護すべき権利利益が存在し、報告が得られないことによる不利益と照会に応じて報告することによる不利益とを比較衡量して、後者の不利益が勝ると認められる場合をいう」と指摘。

 さらに、税理士法第38条(税理士は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は窃用してはならない。税理士でなくなった後においても、また同様とする)を踏まえ、「税理士は、税理士業務の遂行に当たって、納税義務者の資産、負債の状況、資金繰り、取引内容等々の細部にまで立ち入ることとなり、他人に知られたくない秘密に接する機会が極めて多い」、「納税義務者の秘密に関する事項を税理士がみだりに外部に漏らすことがあるとすれば、納税義務者は安心して税理士に委嘱することができず、両者の相互の信頼関係は成り立たないことになる」、「税理士法38条に基づく守秘義務は、税理士業務の根幹に関わる極めて重要な義務である」などとしている。

弁護士会の照会は「正当な理由」か?
 
 では、A税理士が弁護士会の照会に応じたのは、税理士法第38条にある「正当な理由」に該当しないのだろうか。これについて、大阪高裁は次のように判断している。


 ①別件訴訟で、平成22年3月以降のB氏の体調不良を立証しようとしているのに、A税理士が所持する平成15年から平成21年の確定申告書では、平成22年に体調不良により収入が減少したかどうかを認定することは期待できない(A税理士本人も、照会申出の理由と確定申告書等の内容とが直接関係がないと思った旨供述している)。

 ②確定申告書や総勘定元帳は、プライバシーに関する事項を多く含むものであり、これらの事項が開示されることによる控訴人の不利益は看過しがたいものというべきである。これが開示されることによる控訴人の不利益が、照会に応じないことによる不利益を上回ることは明らか、③照会注意書に「本人の同意を得る必要がない」と記載されているが、それは個人情報保護法令との関係で23条照会が除外事由に当たることを示したにすぎず、23条照会に応ずることの適否について本人の意向を確認することが常に不要だというものではない」などとして、A税理士に慰謝料の支払いを命じた。

 なお、A税理士は、「23 条照会は、事前に弁護士会が必要性、相当性を審査して行われている」と主張したが、大阪高裁は、「弁護士会が23条照会申出の適否につき、どの程度審査を行っているのか不明」とし、「京都弁護士会は、弁護士の申出を受け付けた当日に、直ちに照会を(A税理士に)発送しており、厳格な審査が行われた形跡はない」とした。

守秘義務を貫いても損害賠償!?

 
一方で、守秘義務を理由に弁護士会の照会を拒否したことで、損害賠償を請求されている裁判も起きている。K氏による未公開株詐欺の被害にあったD氏は、裁判でK氏との和解が成立したが、損害賠償金が支払われないため、動産執行等の強制執行手続を検討していた。しかし、K氏は、住民票上の住所に居住しておらず、転居先を調べるために弁護士会が照会を行った。照会先は、日本郵便(地裁の時点では郵便事業株式会社)だ。


 ところが、同社は「照会には応じかねる」と回答。弁護士会は照会に応じるよう再度求めたが、同社は再び拒否した。この行為に対し、弁護士会が損害賠償を請求したのだ。同社は、「でき得る限りの検討を加え、それに基づいて拒絶がされたのであるから、結果回避義務を尽くした」などと主張。地裁判決では、弁護士会側の請求を棄却したが、名古屋高裁では、「照会先が法律上の守秘義務を負っているとの一事をもって、23条照会に対する報告を拒む正当な理由があると判断するのは相当ではない」、「守秘義務を負う照会先は、23条照会に対し報告をする必要があるか自ら判断すべき職責がある」などと指摘。日本郵便の情報開示の拒否を違法と判断し、賠償金の支払いを命じた。

 なお、一部報道によると、最高裁第3小法廷で上告審弁論が開かれている。最高裁は通常、二審の判決を変更する際に弁論を開くため、日本郵便が敗訴した二審判決が見直される可能性がある。

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