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税務の勘所Vital Point of Tax

前の裁判で認められた株の評価額 遺産分割後の更正の請求で使えず

2021/09/03

 以前の裁判で裁判所が国税当局より低く認定した株式評価額について、同じ相続案件において遺産分割による財産の増減を修正する「相続税の更正の請求の特則」でも利用できるかどうかで争われた裁判で、最高裁は6月24日、「利用はできない」と判断。納税者の請求を認容した高裁判決を破棄し、国税当局の処分等を適法とする判決を下した。


1. 納税者有利の評価額が認められた以前の裁判

 以前の裁判とは、いわゆる「株式保有特定会社」の株式の評価をめぐる争いだ。具体的には、母親から同族会社Aの取引相場のない株式と、そのグループ子会社Bの取引相場のない株式などを相続し、平成16年2月に法定相続分で相続税の当初申告をしていた事案で、非上場株式の相続税評価額が高すぎるとして納税者と国税当局が争っていたもの。A社が取引相場のない株式の相続税評価上、大会社として株式保有特定会社に該当するかどうか、ひいては純資産価額方式で評価されるかどうかが争点となった。

 この争いについて東京高裁は平成25年2月、平成9年の独占禁止法の改正後、会社の株式保有に関する時代情勢が、株式保有特定会社に係る評価通達の定めが置かれた平成2年の評価通達改正時から大きく変化していることなどを指摘。大会社の保有資産の金額に占める株式の金額の割合が25%以上だからといって同社を株式保有特定会社と認定するのは時代にそぐわず不合理だとして、A社の株式保有割合が約25.9%であることなどを踏まえた上で、同社は株式保有特定会社に該当しないと判断。「純資産価額方式」ではなく「類似業種比準方式」により評価すべきだとした(平成25年確定)。

 東京高裁が認定した株式の評価額は、A社株式の価額1株当たり4653円、B社株式の価額1株当たり3万1189円だった。なお、国税庁は同年、株式保有特定会社と認定する株式の保有割合を25%以上から50%以上に変更する財産評価基本通達の改正を行っている。

2. 以前の裁判で認められた株式の評価額を利用

 問題はこのあとだ。納税者は平成26年6月、母親からの相続に関して遺産分割の調停が調ったとして、取得した財産の増減を修正するため「相続税の更正の請求の特則」の手続きを行った。その際、納税者はA社とB社の株式について当初申告の評価額ではなく、以前の裁判で東京高裁が認定した評価額をベースに税額を計算した。というのも、過去の誤った評価額に縛られず、適正な評価額で課税または還付を受ける権利があると考えたからだ。

 更正の請求といえば、大まかに2つのタイプがある。それは、①申告書に記載した課税標準等・税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合や、その計算に誤りがあって納付すべき税額が過大であった場合などで、元の申告書の提出期限から5年以内に限って認められている通常のタイプ(国税通則法23条1項)。また、②課税標準等・税額の計算の基礎になった事実関係に関する裁判などにより、当初の事実関係と異なることが確定した場合、確定した日の翌日から起算して2か月以内に限って認められている後発的事由のタイプ(国税通則法23条2項)。

 
これに対して今回の裁判で争点となった「相続税の更正の請求の特則」とは、相続特有の事由により認められている制度。最も身近なケースとしては、相続税の申告期限までに遺産分割が成立していない財産がある場合に法定相続分でとりあえず申告し(相続税法55条)、遺産分割が調ったときに実際の相続財産の取得分で更正の請求等を認めるといったものがある。

 相続税では、当初申告時には調っていなかった遺産分割について、その後、財産の分割協議が成立し、相続する割合が変わって当初申告時の課税価格と異なるような場合には、このことを知った日の翌日から4カ月以内に限り、その分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、その相続人は減額のための更正の請求をすることができるとされている。これが相続税法32条(相続税法の構成の請求の特則)だ。

 納税者が以前の裁判で認められた株式の評価額を利用したことに対し、国税当局が当初申告の株評価で請求すべきだとして増額更正処分をしたことで、「相続税の更正の請求の特則」をめぐる争いに突入した。当局の考えは「問題の非上場株式の会社が株式保有特定会社に該当しないとの判断は、更正処分等における株式の評価の誤りをいうにすぎず、相続税法55条(未分割遺産に対する課税)に基づき法定相続分に従って申告をした後に遺産分割を行ったことにより、当初の法定相続分に従った課税価格と異なる課税価格になったという相続税特有の事情とは何ら関係なく、同法32条1号に掲げる事由に当たらないことは明らか」というものだった。

3. 東京高裁が納税者有利の判決を下した理由

 東京高裁は、「以前の裁判ではA社株式およびB社株式の評価方法について判断し、それを用いるなどして算出した各株式の価額を基礎として課税価格・納付すべき税額を計算して、当初申告に係る納付すべき税額を超える部分が違法であるとの判断を導いたもの」とした。

 その上で東京高裁は、母親からの相続で同じ案件であることから、「問題の各株式の評価方法ないし価額に係る以前の裁判の判決の判断に行政事件訴訟法33条1項(処分または裁決を取り消す判決は、その事件について、処分または裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する)所定の拘束力が生ずる」ものだから、税務当局は相続税の更正の請求の特則の手続きに基づく処分に当たり「前件判決における本件各株式の評価方法ないし価額を基礎として遺産分割後の課税価格および納付すべき税額を計算しなければならない」と判断した。ある意味、国税通則法の規定を超える納税者有利の判断だった。

4. 最高裁は当局の処分を適法だったと判断

 ところが、最高裁はこの判断を是認しなかった。相続税の更正の請求の特則は、法定相続分に基づく当初申告後の遺産分割により取得財産に異同が生じた場合など、後発的事由が生じた場合に認められるものとし、「後発的事由以外の事由を主張することはできないのであるから、一旦確定していた相続税額の算定基礎となった個々の財産の価額に係る評価の誤りを当該請求の理由とすることはできず、課税庁も国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後は、当該請求に対する処分において上記の評価の誤りを是正することはできないものと解するのが相当」と判断。

 また、最高裁は、以前の裁判で当初申告に係る財産評価について申告とは異なる価額を認定した上で、その結果算出される税額が申告に係る税額を下回るとの理由により、申告税額を超える部分を取り消す旨の判決が確定した場合について言及している。

 概要は次のとおりだ。「当該判決により増額更正処分の一部取消しがされた後の税額が申告における個々の財産の価額を照らして、国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後においては、当該判決に示された価額や評価方法を用いて相続税法32条1号の規定等による更正の請求に対する処分をする法令上の権限を有していないものといわざるを得ない」。

 結局、国税通則法の規定が守られ、納税者は当初申告に戻って処分されるという結果になった。

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