審判所 賃貸借契約は「一時使用」に該当 相続税の評価減認めず
2026/10/30
不動産の売却後、売主が移転するまで買主から建物を借り受ける賃貸借契約をした家屋と敷地について、相続税評価上の「貸家・貸家建付地」に該当するかが争われた事案で、国税不服審判所は、一時使用のための賃貸借に当たるとして、貸家・貸家建付地としての評価減を認めなかった(令和8年3月11日裁決・情報公開による)。
裁決書によると、問題となった土地と建物は、A社が被相続人に売却したもので、建物は昭和43年1月に新築され、その5年後に増築された鉄骨コンクリートブロック造4階建ての倉庫・事務所・居宅だった。
被相続人は令和3年11月、A社との売買契約により不動産の所有権を取得し、引渡しを受けた。ただし、売買契約の特約では、引渡し後、A社が退去するまでの間、被相続人を賃貸人、A社を賃借人とする賃貸借契約を締結することとされていた。
これに基づき、被相続人とA社は同年12月、第三者の仲介により、次のような賃貸借契約を締結した。
①賃貸借契約書の表題は「建物一時賃貸借契約書」。
②賃貸借期間(第4条)は令和3年12月13日から令和4年5月31日までとし、期間満了をもって賃貸借契約は終了する。ただし、A社が延長を希望する場合、期間満了の1か月以上前に被相続人に通知することで、1か月単位で最長令和4年12月31日まで延長できる。
③建物や設備等の修繕が必要となった場合、その費用はA社が負担する(第11条、第27条)。
④契約終了後、A社は建物内の動産類等をすべて撤去の上、遅滞なく建物を明け渡し、名目を問わず、建物等について支出した金銭、移転料、立退料などを要求することはできない(第22条)。
⑤賃貸借契約書には、敷金や保証金など、被相続人のA社に対する債権を担保すべき金銭等の定めはなかった。
その後、A社から解約の申入れがあり、賃貸借契約は令和4年2月28日をもって終了し、A社は同日、建物から退去した。この間に被相続人が死亡し、相続が開始した。
相続人は、相続税の当初申告で、この不動産を貸家・貸家建付地として評価した。これに対し、所轄税務署は自用として相続税評価額を増額更正したため、相続人はこれを不服とし、国税不服審判所に対して貸家・貸家建付地として評価するよう審査請求した。
契約の目的・動機などで判断
約2か月半の賃貸期間も考慮
争点は、問題の不動産が相続税評価上、「貸家・貸家建付地」に該当するかどうか。その前提として、A社との賃貸借契約が一時使用を目的としたものかどうかが問題となった。
財産評価基本通達では、借地借家法の適用がある貸家・貸家建付地について評価減が認められている。一方、借地借家法40条「一時使用目的の建物の賃貸借」では、「一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合」には、同法の借家に関する規定を適用しないと定めている。
このため今回の事案では、A社との賃貸借契約が同条の「一時使用のための賃貸借」に該当するかどうかがポイントとなった。
審判所は、財産評価基本通達93について、「借地借家法の適用がある貸家は同通達に基づいて評価される」とした。その上で、借地借家法40条の「一時使用のための賃貸借」に該当するかどうかについて、「賃貸借の目的、動機、その他諸般の事情から、当該賃貸借契約を短期間内に限り存続させる趣旨のものであることが、客観的に判断されるか否かによるべきものである」との判断基準を示した。これは、最高裁昭和36年10月10日第三小法廷判決などの過去の判例に基づくものだ。

その上で審判所は、A社が保有していた建物は築年数が古く、修繕する場合は高額な費用を要する状況だったことから売却先を探していたこと、また、金融機関への借入金利息の負担を考慮して少しでも早く手放すため、移転先が決まるまで建物を一時的に借り受けることを前提に不動産の売買契約と賃貸借契約を締結したことを認定した。
審判所は、上記の判断基準を今回の事実関係に当てはめ、認定事実を整理した。
(1)賃貸借の目的は、A社の移転先が決まるまで、建物を一時的に借り受けるためのものだった。
(2)賃貸借契約では建物に係る修繕費をA社の負担としていたことなどから、A社には、賃貸借契約を短期間に限って存続させる意思があった。
(3)実際の賃貸借期間は約2か月半で、当初の賃貸借期間の2分の1にも満たない短期間だった。
(4)短期間の賃貸借では、敷金など賃貸人の債権を担保する金銭等の定めを設ける必要性に乏しく、こうした定めがなかったことも、賃貸借契約を短期間に限って存続させることが予定されていたことを推認させる。
以上から審判所は、A社との賃貸借契約は一時使用のためのものと認定し、この不動産について相続税評価上、「貸家・貸家建付地」として評価することはできないと判断した。
貸付用不動産の5年ルールでは
審判所判断は逆に有利になる!?
国税庁は9月18日、パブリック・コメント手続きのため、法令解釈通達「貸付用不動産の評価について(案)」を公表した。
同案によると、「課税時期前5年以内に取得等された貸付用不動産の評価」、いわゆる「5年ルール」の対象となるのは、①全部または一部が「借家権」の目的となっている家屋、②その家屋とともに賃貸されている付属設備や構築物、③これらの敷地となっている宅地や、その宅地の上に存する借地権等とされている。
これらの貸付用不動産は、原則として時価で評価する。ただし、その取得価額が取得時の通常の取引価額に相当すると認められる場合には、地価変動率や減価償却を考慮した金額の8割相当額で評価することができる。
ここでいう「課税時期」とは、相続、遺贈または贈与により貸付用不動産を取得した時をいい、これを起算点として5年以内かどうかを判定する。また、「取得等」とは、対価を伴う取引によって取得等をしたことをいう。
ところで、今回の賃貸借契約をめぐる審判所の事案では、被相続人が不動産を取得してから5年以内に相続が開始している。相続人は「貸家・貸家建付地」として相続税の評価減を求めたが、審判所は、一時使用を目的とした賃貸借に当たるとしてこれを認めなかった。
しかし、もし、同様のケースが令和9年以後に発生した場合、見方が少し変わってくる。今回の事例を新たな「5年ルール」に当てはめて、通達にいう「借家権」が借地借家法からの借用概念だと仮定した場合、「借家権アリ」であれば時価評価の対象となり得る貸付用不動産となり、「借家権ナシ」であれば逆に貸付用不動産に該当しない方向に働く――そんなふうに捉えることもできるためだ。
いずれにしても、具体的な取扱いについては、今後、国税庁が明らかにする通達の解説等を確認する必要がありそうだ。