特例措置は10年間だけど・・・待ったなしの事業承継対策
2018/04/24
平成30年度税制改正において、10年間の特例措置として事業承継税制の抜本的な拡充が行われた。これにより、中小企業の円滑な事業承継の促進が期待されるところだが、「10年も時間がある」などと問題を先送りにしていると、特例の適用が受けられない事態にもなりかねないので注意したい。
平成30年度税制改正によって大幅な見直しが行われた事業承継税制。主な改正点としては、①対象株式の範囲について従来の3分の2を撤廃(全株式を対象)、② 相続税の納税猶予の割合を80%から100%に変更、③5年間平均8割の雇用維持要件を事実上撤廃――などがある。
これらの要件緩和は、平成30年1月1日から平成39年12月31日までの10年間限定の特例となっているが、「1 0年も時間がある」などと事業承継問題を先送りするのは危険だ。特例の適用を受けるには、認定経営革新等支援機関の指導および助言を受けて「特例承継計画」を作成し、平成35年3月31日までに都道府県庁に提出しなければならない。そのため、経営者が事業承継を考えているのであれば、特例の適用を受ける権利を得るためにも、期限内に特例承認計画を提出しておくべきだろう。
もちろん、この10年間のうちに相続が発生するとは断定できない。そこで、「事業承継税制の特例は贈与で適用すべき制度」と指摘するのは、資産税支援に特化した税理士法人タクトコンサルティング代表の玉越賢治税理士だ。「10年以内に贈与しておけば、10年経過後に贈与者に相続が開始しても、その際の相続税について新事業承継税制が適用できますが、10年以内に贈与しておらず、10年経過後に相続が開始した場合には、新事業承継税制の適用を受けることはできないためです」。
同時に、「新事業承継税制の適用を受ける場合は、事前に事業承継プランを決めておくことが重要となります。そのための調整や時間を考えると、できるだけ早急に取り組むべきだと考えます」。
早めの事前対策が必要な理由として玉越税理士は、「例えば、贈与税に係る事業承継税制を適用する場合には、受贈者は20歳以上で、引き続き3年以上にわたり役員であることが求められます。もし、株式の贈与を受ける予定の後継者が役員になっていない場合は、役員就任後3年を待たなければ贈与に際して事業承継税制の適用を受けることができません。また、新事業承継税制は、贈与者およびその特別関係者(親族等)が発行済議決権株式数の過半数を占めていることが必要となりますが、贈与者と特別関係者で過半数の株式を所有していない場合には、他の株主から株式を買い集めるなどの事前対策が必要となり、多くの時間を要することもあります」という。
さらに、新しい事業承継税制では、経営者等が所有する全株式を後継者に承継させることが可能となったが、その際にも早めの事前対策が欠かせないと玉越税理士は指摘する。「全株式を後継者に集中することで経営の安定化は図れますが、他の相続人から見れば自分が相続する財産がそれだけ減少することに繋がり、遺留分の問題にスポットが当たる可能性がこれまで以上に高くなります。そのため、遺留分の放棄、民法の遺留分特例などを講じておくほか、時間をかけて他の相続人を説得する必要もあります」。
今回の改正により、複数の株主から、最大3人の後継者への承継が認められることとなったが、株主のうちの誰が特例を適用して贈与するのか、誰を後継者にするのか、誰から誰に株式を承継させるのか、事前に事業承継のプランを決めておかず、行き当たりばったりで贈与をすれば、後々になってトラブルが起きることも十分考えられる。
新しい事業承継税制を有効活用し、関与先の円滑な事業承継を実現させるためにも、経営者に「早めの事前対策」を呼び掛けたいところだ。