日税グループは、税理士先生の情報収集をお手伝いします。日税ジャーナルオンライン

MENU

税務の勘所Vital Point of Tax

役員に前期の利益を分割して支払ったらどうなるのか?

2018/03/15

 株主総会において役員賞与支給議案を株主総会に提出して承認を得るという手続きで支給される役員賞与は、その承認後、一時に支払われるのが通例のようだが、前期の利益の一部を12等分して各月の役員報酬に上乗せし、役員報酬として支払うこととしたら、法人税法上の取扱いはどうなるのだろうか。

制度の創設理由は「利益の分配は損金にならない」という法人税の根幹の理論

 役員報酬と役員賞与に関する法人税法の規定は、昭和34年に創設されました。役員報酬に関しては、「原則として損金性を有するもの」(大蔵省主税局税制第一課課長補佐 市丸吉左エ門「改正法人税法解説」財政(臨時増刊)第24巻第5号(昭和34年)53頁)という理解の下に、過大な役員報酬は、「利益の分配」(同前53頁)であるため、損金不算入とするとされており、商法の定めにより定款等に役員報酬の限度額を定めている場合におけるその限度超過額を損金不算入とする理由が次のように説明されています。


 「役員報酬の性質は委任報酬であるが、その報酬が取締役等の役員によつて恣意的に御手盛りの額が定められることを防止するため、商法は役員報酬に関する規定を設けてその支給額の規制を行つている。〔中略〕商法は定款又は株主総会で定めることとすれば、当然その役員の職務の内容、収益の状況等に照らし、社会的に適正な額が定まるものと期待しているのである。〔中略〕その限度超過額は、本来支払請求権がないものであるから、損金に算入しないこととしたのは当然であり、現行通達においても基本的にはこのように取り扱われている。」(同前54・55頁)

 
するに、商法は、「恣意的」に「御手盛り」の役員報酬が支払われることを防止するために規制を行っており、これに対して、法人税法は、「本来支払請求権がないものである」(支払請求権がないにもかかわらず支払うものは「利益の分配」である)ことを理由として、限度超過額を損金不算入としているわけです。このように、昭和34年には、商法の目的と法人税法の目的の違いを正しく理解した上で、役員報酬の税制を創設しています。


 また、役員賞与に関しても、「利益分配」(同前56)であるため、税法上、損金不算入とする規定を設けた、と説明されています。

平成18年に「恣意性の排除」が「従来から」損金不算入の理由であるという説明に変更

 上記の役員報酬と役員賞与に関する法人税制は、平成18年に大きく改正されました。平成18年には、次のように説明した上で、「恣意性が排除されているものについて損金算入を認める」(『平成18年度税制改正の解説』323頁)こととした、とされています。


 「(2)改正の趣旨 法人が支給する役員給与については、役員に直接的に経済的利益を帰属させるというその態様から、お手盛り的な支給が懸念され、会社法制上も特段の手続的規制に服するものとされています。税制上の観点からは、このような性質の経費について法人段階での損金算入を安易に認め、結果として法人の税負担の減少を容認することは、課税の公平の観点からもとより問題があります。〔中略〕このような状況の下、わが国税制では、従来から役員給与の支給の恣意性を排除することが適正な課税を実現する観点から不可欠と考えており、具体的には、法人段階において損金算入される役員給与の範囲を職務執行の対価として相当とされる範囲内に制限することとされてきました。」(同前)

 この説明には、「お手盛り的な支給が懸念され(る)」性質のものは損金算入すべきでないという部分は商法・会社法の目的を法人税法の目的に置き換えていないか、「わが国税制では、従来から役員給与の支給の恣意性を排除することが適正な課税を実現する観点から不可欠と考えており」という部分は事実に反していないか、という疑問があります。

 平成18年度改正は、利益に連動するものだけを損金算入するという「利益連動給与」を思い浮かべると分かるとおり、従来の理論では正当性を説明することが困難であるため、従来の「利益の分配は損金にならない」という理論を「恣意性の排除」という「理論」に差し替えており、それが上記のような疑問が生じてくる原因となっているわけです。

旧34条に関係する「恣意性の排除」を理由に挙げながら次条の旧35条を改正

 「お手盛り」や「恣意性」の排除ということは、役員報酬に関して述べられていたことであり、役員賞与に関するものではありませんので、上記の説明からすると、常識的には、役員報酬に関する取扱いが変わる、ということになるわけですが、平成18年には、旧法人税法34条の役員報酬の取扱い(過大役員報酬・隠ぺい仮装役員報酬の損金不算入)は改正せず、同35条の役員賞与の損金不算入を「役員給与」の損金不算入に拡大する改正を行うという、他に例を見ない対応がなされています。


 立法の常識からすると、旧法人税法35条を改正するのであれば、同条の「利益の分配は損金にならない」という理論に基づく取扱いについて、その改正理由を述べなければならないわけですが、同条の改正の解説では、その理論への言及さえなされていません。

 このように、旧法人税法35条が同条の従来の理論とは全く関係のない「恣意性の排除」という独自の見解によって改正されていることからすると、平成18年度改正以後は、役員賞与について、「利益の分配は損金にならない」と考える必要はないものと思われます。

役員に前期の利益を分割して支払ったらどうなるのか?

 上記の点を踏まえて、前期の利益の一部を12等分して各月の役員報酬に上乗せし、役員報酬として支払った場合の法人税法上の取扱いを考えてみましょう。


 平成18年度改正以後は、法令の規定と国税当局の解説のいずれにも、「利益の分配」を理由として役員給与を損金不算入とすべきであるとする旨の文言は、全く見当たらず、「従来から」「恣意性の排除」が不可欠と考えられてきた、と説明される状態となっています。

 また、法人税法34条は、役員報酬が「その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである〔こと〕」(1項1号)、つまり、分割支給されることを予定しているものと解されます。

 さらに、法人税法34条及び関係政令では、「支払」ではなく「支給」とされているため、「支給」の意味内容に注意が必要となりますが、法人税基本通達9-2-12(定期同額給与の意義)に関する国税庁の解説では、「非常勤役員に対する役員給与で、その額が各月ごとの一定額を基礎として定められているものであっても、年俸又は期間俸として年1回又は年2回といった所定の時期に支給するものは、支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与に当たらないため、定期同額給与には該当しない。」とされていますので、この「支給」は「支払」を意味するものと解されます。

 もちろん、前期の利益の一部を役員に分配することは、「お手盛り」でも「恣意性」のあることでもなく、その分配を分割して行うことが禁止されているわけでもありません。

 以上のような点からすると、前期の利益の一部を12等分して各月の役員報酬に上乗せして支払ったとしても、現在の法人税法34条及び関係政令では、その損金算入を否認することはできないものと考えます。

 アドバイザー/朝長 英樹 税理士

PAGE TOP