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税務の勘所Vital Point of Tax

生産緑地法の改正と関連税制の見直しで都市農家に求められる最適な選択とは!?

2018/05/24

2022年に生産緑地の買取申出が可能となる、いわゆる生産緑地の「2022年問題」を控え、昨年4月、生産緑地法が見直され、特定生産緑地の指定制度が創設された。同法の改正を踏まえ、平成30年度税制改正において、生産緑地関連の税制も見直されている。そこで、生産緑地法の改正の概要と平成30年度税制改正で講じられた措置を整理し、予測される今後の生産緑地所有農家の動きを探った。


 昨年の生産緑地法の改正を踏まえ、平成30年度税制改正において関連の税制も見直された。これに伴い、農業を継続するか、宅地にシフトするかの判断が迫られる、生産緑地のいわゆる「2022年問題」の到来に向け、生産緑地を所有する都市農家の選択肢も広がったといえる。同時に、最初(1992年)の生産緑地指定から30年目を迎える2022年までに取り組まなければならない課題もより明確になってきた。

 まず、今回の税制改正の前提になった昨年の生産緑地法の改正の概要を振り返ってみる。改正のポイントは、①特定生産緑地制度の創設、②建築規制の緩和、③面積要件の引下げ――の3つ。まず、特定生産緑地制度は、2022年に生産緑地全体の約8割程度が指定から30年を経過し、いつでも買取申出が可能となることに対応して創設されたもので、新たに特定生産緑地に指定することで、買取申出の期日を10年先送りする制度。つまり、10年経過後は、改めて所有者の同意を前提に、繰り返し指定を10年延長していくことで、買取申出を先送りしていくのが狙いだ。

 また、これまで、生産緑地地区を都市計画に定めるには、一団で500㎡以上の区域とする規模要件が設けられてきたが、条例を通じて300㎡までの引下げが可能になる。併せて、同一又は隣接する街区内に複数の農地がある場合、一団の農地等とみなして指定を可能にするなど運用の改善も図られる。

 さらに、これまで生産緑地地区内で設置可能な建築物は農業用施設に限定されてきたが、今後は、農産物等加工施設、農産物等直売所、農家レストラン等の設置が可能になり、都市農家のビジネスチャンスも広がる。

 この特定生産緑地指定制度が創設されたことで、生産緑地の所有者が危惧したのが税制の動き。というのも、いつでも買取申出が可能な生産緑地が、これまでと同様に税制の恩典を享受できるのか、また10年ごとに指定が繰り返される特定生産緑地も、納税猶予等の特例の適用が認められるのかどうか、税制が見直されるまでは不明だったからでもある。

 生産緑地の所有者には、相続税・贈与税、固定資産税・都市計画税、不動産取得税等が関わってくる。特に、相続の際の評価額が殊のほか高い市街化区域では、相続税・贈与税の納税猶予の適用が認められるか否かは、農業継続をする上でも重要な判断要素になってくる。

市民農園への貸付けも納税猶予の対象

 税制改正法をみると、まず、貸付けがされた生産緑地に関する相続税の納税猶予については、都市農地の貸借の円滑化に関する法律が定める①認定事業計画に基づいて貸し付けられる農地、②特定都市農地の貸付けの用に供されるための貸付け、また、特定農地貸付法の定めに基づいて行われる③地方公共団体又は農業協同組合が行う特定農地貸付けの用に供されるための貸付け、④地方公共団体及び農業協同組合以外の者が行う特定農地貸付けの用に供されるための貸付け――も、特例の適用が認められる。

 つまり、①は市民農園以外の貸付け、②から④は市民農園としての貸付けがイメージされているが、④の特定貸付けのケースでは、その者が所有する農地で行われるもので、一定の貸付協定を締結しているものに限定されるため、留意が必要だろう。

 相続税の納税猶予の特例の対象になる農地は税法上「特例農地等」と呼ばれるが、新たにその範囲に、①特定生産緑地である農地等、②三大都市圏の特定市の田園住居地域内の農地、③農作物の栽培が耕作に該当するものとみなされる農地――が追加されることになった。その結果、2022年以降、10年毎に特定生産緑地の指定を受ければ、継続して納税猶予が認められることになる。

 贈与税の納税猶予特例についても同様の措置が講じられるが、特定生産緑地の指定又は指定期限の延長がされない生産緑地に関しては、現に適用を受けている納税猶予に限って猶予を継続できる。つまり、それ以降の猶予は認められないことになる。

 相続税等の納税猶予と同様に、都市農家にとって危惧されるのが固定資産税だが、生産緑地地区内の農地のうち、特定生産緑地の指定がされたものに関する固定資産税・都市計画税については、現行制度と同様の対応となる。そのため、指定の期限延長がされなかったものは宅地並み課税に移行する。しかし、激変緩和の観点から、生産緑地地区内の農地のうち特定生産緑地の指定又は期限の延長がされなかったものの固定資産税等を宅地並み評価にするとした上で、生産緑地地区内の農地に該当しないことになった市街化区域農地と同様の措置が講じられる。つまり、特定生産緑地に指定された場合、現行と同様の農地課税とし、指定されない場合は宅地並み課税に移行するものの、急激な負担増を抑制するため、5年間で毎年20%ずつ段階的に宅地並みに引き上げていく激変緩和措置が講じられることになる。

 さらに、徴収猶予制度が設けられている不動産取得税についても、対象となる農地等の範囲に特定生産緑地等が追加される一方で、特定生産緑地の指定等を受けなかった生産緑地については、現に適用を受けている徴収猶予に限って、その猶予が継続していく。

 生産緑地法の改正、平成30年度税制改正の結果、農業従事継続の意思のある都市農家は、その多くが特定生産緑地の指定を選択する流れになろう。後継者不在等々から農業継続の意思が薄い都市農家の場合は、買取申出を選択することになると想定されるが、特定生産緑地の指定を選択せず、常時、買取申出が可能な生産緑地地区の農業継続を積極的に継続するという選択肢は想定しにくい。

 いずれにしても、納税猶予の適用、農地課税の恩典を享受したいというのであれば、特定生産緑地の指定を受ける必要がある。その際、期間経過後は指定を受けることができなくなるため、慎重な対応が必要となる。

 都市農地の位置付けが、従来の宅地化すべきものから都市にあるべきものに大きくシフトした今、買取申出時期の2022年に向けて、生産緑地法、税制の両面を見据えた賢い選択が求められよう。

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