相続時点で汚染浄化は行われていた!?審判所 土地の相続税評価で減価認めず
2025/07/31
被相続人から土地を賃借していたプレス加工会社の経営者(借地人)が、土地の返還にあたり賃貸借契約に基づく原状回復義務を履行し、相続開始から約1年半後に土壌汚染の浄化・改善を完了した事案で、その費用相当額を土地の相続税評価から控除できるかどうかについて、借地人と税務署の間で見解が分かれて争いとなっていたが、国税不服審判所はこのほど、控除は認められないとの判断を示した(令和6年12月9日裁決)。

裁決のポイント
今回の裁決でポイントになったのは、相続財産の金銭的価値を見積もる場合の原則を定めた財産評価基本通達1(評価の原則)(3)にある「財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮する」という取扱いだ。
相続した土地に、法令に定められた特定有害物質による汚染があり、取引価額に影響を及ぼすと見込まれる場合、その土地の相続税評価においても減価要因として考慮できるかどうかが問題となる。
減価が認められる場合には、土壌汚染がなかった場合の土地の評価額から、土壌汚染の浄化・改善費用相当額等を控除する(国税庁「土壌汚染地の評価等の考え方について(情報)」平成16年7月5日)。浄化・改善費用相当額は、合理的な方法で見積もられたものであることを前提に、通常は見積額の80%相当額を控除する。ただし、これは「相続時点で汚染浄化等が行われていない」ことが前提となる。
事案の概要
問題になった土地は、「中小工場地区」に所在する約4000㎡の土地で、相続開始は2019年。
相続開始前に、プレス加工会社の経営者と被相続人らの間で土地の賃貸借契約が締結され、契約には賃借人の負担による原状回復義務の取り決めがあった。その後、プレス加工会社は、経営状況の悪化から会社の清算を決め、土地の明け渡しに向けて、相続開始前から土壌汚染対策法に基づく土壌汚染状況調査を開始。相続開始からおよそ1年半後、土壌汚染の除染等の工事を完了。プレス加工会社の財務状況が悪かったため、その費用は親会社が負担した。
審判所の判断
争点は、この土地が「相続開始時点において土壌汚染が除去されたものとして評価すべきか」、あるいは「浄化・改善費用相当額を控除して評価すべきか」(ほかの争点は割愛)。
審判所はまず、「相続開始日におけるプレス加工会社の原状回復義務の有無および同義務の履行可能性の程度は、土地の価額に影響を及ぼすべき事情といえる」として、以下の事実関係を認定した。
①原状回復義務は、賃貸借契約の終了によって発生するが、相続開始日においては土地賃貸借契約の終了により、その義務が発生するのは確実であったこと。
②プレス加工会社は単独で除去費用等を全額負担できる状況ではなかったが、親会社が費用を肩代わりしなければ、信用棄損の程度は著しく、同社グループの経営にも被害が及ぶことから、事実上、親会社が費用を負担せざるを得ない状況であったと認められること。
③相続開始日前の時点で、先行調査として地歴調査が実施されており、土壌汚染の結果次第ではあるものの、プレス加工会社が具体的な除去の方法を検討し、施工業者まで選定していること。
④相続開始から9か月以内に、プレス加工会社が土壌汚染の掘削除去等を行うことを一般向けに公表し、相続開始日から1年も経過しない翌年3月9日には、除染工事を着手させ、その後、親会社が工事代金を立替払していること。
⑤相続開始の時点において、地歴調査によって土壌汚染が判明した場合には、プレス加工会社が速やかに除去を行うべきものと認識・予定していたことは明らかで、その費用についても親会社が立替払を行うことが十分想定されており、親会社にもその意図があったと推認されること。
これらの事情から、審判所は「相続開始時点で原状回復義務の履行の蓋然性が高かった」として、当該土地は相続開始時点において、すでに土壌汚染が除去されたものとして評価すべきであり、浄化・改善費用相当額を控除するのは相当ではないと判断した。