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税務の勘所Vital Point of Tax

老人ホームの入居金をめぐる税務トラブル ~裁決事例を検証~

2017/01/16

 老人ホームでの暮らしを選択する高齢者は年々増え続けているが、老人ホームの入居中に相続が発生し、税務トラブルが発生するケースも出てきている。今回は、有料老人ホームの入居金について、被相続人の妻が有料老人ホームへ入居する際に、妻の代わりに被相続人(夫)が支払った入居金が、贈与税の非課税財産に該当するか否かが争われた2つの裁決を紹介する。

 1つは、有料老人ホームの入居金について、相続税法21 条の3 第1 項2号における「生活費」に該当するため、贈与税の非課税財産に該当すると判断(平成22 年11 月19 日裁決)したのに対し、もう1つは、「生活費」に該当しないため、贈与税の非課税財産に該当しないと判断(平成23 年6 月10 日裁決)したものだ。

 「生活費に該当する」と判断した裁決では、審判所はまず、被相続人が配偶者のために負担した介護付有料老人ホームの入居金について、支払時に被相続人と配偶者の両者間で入居金相当額の金銭の贈与があったと認定。そのうえで、相続税法21 条の3 第1 項2 号に規定する「扶養義務者相互間において生活費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常認められるもの」に該当するとした。

 その理由として、①配偶者は高齢かつ要介護状態にあり、被相続人による自宅での介護が困難なため、介護施設への入居が必要に迫られたこと、②老人ホームへの入居には入居金を支払う必要があったこと、③配偶者は入居金を支払う金銭を有していなかったため被相続人が代わりに支払ったこと、④被相続人にとって、配偶者を入居させたことは自宅での介護を伴う生活費の負担に代えるものとして相当であること、⑤老人ホームは介護の目的を超えた華美な施設ではなく、介護生活を行うための必要最小限度のものであったことを挙げている。

 一方、「生活費に該当しない」とした裁決では、被相続人が配偶者のために負担した有料老人ホームの入居金について、贈与税の非課税財産に該当しないから、相続開始前3年以内の贈与として相続税の課税価額に加算する必要があると判断。

 審判所は、自ら支払義務のない妻の入居金の一部を夫が支払ったものであり、これによって妻は、施設利用権を低廉な支出によって取得したものと認められることからすると、妻は、著しく低い対価で老人ホームの施設利用権に相当する経済的利益を享受したものということができ、夫と妻との間に実質的に利益の移転があったことは明らかであるから、相続税法第9 条により、妻はその利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を夫から贈与により取得したものとみなすのが相当だとした。

 また、相続税法第21 条の3第1 項第2 号の立法趣旨にかんがみれば、生活費に該当するか否かの判断は一律に定められるものではなく、個々の具体的事情に即して、社会通念に従って判断すべきものであるとし、本事案については、①老人ホームの入居金は、極めて高額であり、居室面積も広く、フィットネスルーム等の様々な施設を無料で利用できることから、入居金は、社会通念上、日常生活に必要な住の費用であると認めることはできないこと、②老人ホームは介護付有料老人ホームではなく、配偶者は介護状態にないことから、配偶者が老人ホームに入居することが不可避であったとも認められないことを挙げている。

 この2つの裁決では、有料老人ホームの形態、契約内容、入居金等の負担額、その施設の状況、入居方法、入居者の介護の必要性等によって、有料老人ホームの入居金が通常必要と認められる生活費に該当するか否かで判断が分かれている。これらは形式的に判断することは容易ではないため、税務上の判断においては細心の注意が必要といえる。

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