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税務の勘所Vital Point of Tax

一般社団・財団法人 利用目的と税務対応

2016/08/16

一般社団・財団法人制度の概要と移行状況
 一般社団法人は、2人以上の社員が定款を作成し、公証人の認証を受けて、役員を選任し、設立の登記をすれば、どのような事業目的の法人でも設立できる制度になっています。一般財団法人も、設立者が定款を作成し、公証人の認証を受けて、300万円以上の財産を拠出し、役員や評議員を選任し、設立の登記をすれば、一般社団法人と同じように簡単に設立できます。つまり、旧社団法人・財団法人のように行政の設立許可をとらなければ設立できなかった制度と異なり、行政の関与を受けることなく誰でも簡単に設立できる準則主義の制度になっているということです。

 このようにして簡単に設立できる一般社団・財団法人は、行政の関与を受けることなく自由に運営していくこともできますが、公益目的事業を行う法人は行政庁による公益認定を受けることもできます。

 行政庁による公益認定を受ければ、公益社団・財団法人として、行政庁の厳格な監督下に置かれて公益認定の要件を満たしていかなければなりませんが、一方で手厚い税制優遇措置の対象となります。しかし、公益認定の要件を満たせなくなった場合には、公益認定を取り消されて、通常の一般社団・財団法人に戻ることになりますが、公益目的事業用の財産は他の公益法人等に贈与しなければならなくなります。

 このような一般社団・財団法人制度と公益法人認定制度は平成20年12月1日から施行され、その時点で24,000法人を数えた旧社団法人・財産法人は平成25年11月末までの5年間に新制度への移行を行うことが義務付けられていましたが、約3,500法人が合併・解散等により消滅し、約9,000法人が公益社団・財団法人となり、約11,500法人が一般社団・財団法人に移行する結果となりました。一般社団・財団法人に移行した法人は、旧公益法人時代に蓄積した財産をそのまま継続して公益事業に支出し尽くすことが義務付けられており、その間は行政庁の監督を受けることになるため移行法人という特別の区分になっています。

非営利型法人の2つの類型
 一般社団・財団法人のうち、法人税法に定められた一定の要件を満たす法人は非営利型法人に該当します。非営利型法人は、法人税法別表第2に掲げる「公益法人等」の法人グループに属するものとして収益事業課税の適用を受けることになります。非営利型法人に該当しない一般社団・財団法人は、会社などの営利法人と同じ「普通法人」グループに属するものとして、全所得課税の適用を受けます。

 非営利型法人には、2つの類型が定められています。一つは「非営利性が徹底している法人」であり、定款において利益分配しない、残余財産を国等に帰属させるなどの定めを置き、実態において定款違反、関係者への特別利益の供与、親族による法人支配などを排除した文字通り非営利性を徹底した法人類型です。

 2つ目の類型は、「共益的活動を目的とした法人」です。これは非営利性が徹底していない代わり、共益的事業を目的としていることや、税務上の収益事業を主として行わないことなどが求められています。

 非営利型法人に該当していた一般社団・財団法人が、要件を満たせず非営利型法人以外の法人となった場合には、それまでの収益事業課税が全所得課税となるほか、それまでの非収益事業の累積所得金額についても、一時に益金算入されることになります。

一般社団法人を使った相続税対策 
 一般社団法人を相続税対策に用いるという話をよく耳にします。一般社団法人は株式会社のように持分がないので、そこをうまく使えば相続税がかからないで相続財産を引き継ぐことができるというのです。

 確かに、一般社団法人は、誰かが法人を所有する仕組みを持たない非営利法人です。なぜ、所有する仕組みを持たないのかというと、誰かが法人を所有することによる弊害を排除するためであるといえます。誰かが法人を所有することによる弊害とは、端的に法人を私物化することに他なりません。会社などの営利法人は誰かが私物化する法人そのものであっていいわけですが、一般社団法人は、私物化を前提としない法人制度として設けられたものです。一般社団法人の制度は、この組織原理に基づいて組み立てられています。しかし、登記するだけで誰でも簡単に設立でき、行政の監督を受けることのない準則主義の下では、私物化しようとすれば、誰の干渉も受けずに私物化することも可能な制度となっていることもまた事実です。

 そこで、法人税法はその実態に鑑み、同じ一般社団法人でも私物化していない法人の場合には、これを「非営利型法人」として、別表第2の公益法人等のグループに含め、収益事業課税を適用することとしました。その一方で、私物化している法人の場合には、「非営利型法人以外の法人」として、会社などの普通法人並みの全所得課税を適用することとしたものです。かつて同じ準則主義の非営利法人であった中間法人の時には、法人税法は私物化が可能であるとして、一律に普通法人並みの全所得課税のみで応じていたのに比べ、この対応は一般社団法人制度の普及に一定の配慮を示したものといえるでしょう。

 それでは、この一般社団法人を相続税対策に用いるとは具体的にどういうことでしょうか。相続税対策としてまず誰でも考えるのが、個人の所有する自社株や不動産を非営利型法人である一般社団法人に贈与する方法です。この場合、非営利型法人であるため受贈益課税は受けないが、贈与者・親族が法人を私物化していると、法人に相続税や贈与税が課税されます。贈与者・親族の相続税・贈与税の不当減少課税と呼ばれるものです。これを避けるには、贈与者・親族と法人を完全分離して、私物化していない形にすることですが、これは相続税対策にはなっても相続対策にはならない。相続財産を完全分離されては、元も子もないからです。

 次に、考えられるのが、個人の所有する自社株や不動産を非営利型法人である一般社団法人に時価譲渡する方法です。この場合、個人に時価譲渡の対価が入る一方で譲渡所得課税を受けることになり、その差額が相続財産を構成することになりますが、法人に相続税・贈与税の不当減少課税が生じることはありません。

 しかし、一般社団法人を、特定の個人の相続税対策に用いることは、法人の私物化以外の何物でもありません。法人の私物化は、特定の個人に特別の利益を供する結果とならざるを得ません。そうなると非営利型法人の「特定の者に特別の利益を与えない」旨の要件を満たさないので、「非営利型法人以外の法人」に該当するものとして取り扱われることになります。この段階で、法人はそれまで課税を受けなかった収益事業以外の所得に対して累積所得金額課税を受け、以後は普通法人並みの全所得課税を受けることになります。さらに、法人の私物化は、法人の財産に対する支配権(持分)があるものとみなされることとなり、その支配権(持分)が相続税の課税の対象となるでしょう。結局、相続税まで課税されることとなり、自社株や不動産の相続税対策は失敗どころか、全方位からの課税を浴びて最悪の事態を招く結果となりかねないのです。ここでは、一般社団法人だけを取り上げましたが、一般財団法人においても、基本的に同様であると思います。

 アドバイザー/田中義幸 公認会計士・税理士

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