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税務の勘所Vital Point of Tax

評価通達6項の適用めぐる争い 「相続税負担が著しく軽減」高裁で国側が逆転勝訴

2025/07/25

 相続直前に被相続人からの大型出資を受けて新株を発行する、いわゆる「持株外し」を実行した会社の株式の相続税評価をめぐる裁判で、東京高裁は令和7年6月19日、1審の東京地裁判決のうち納税者の主張を認めた部分を取消し、評価通達6項に基づき株式を純資産価格方式で評価した税務署の更正処分等を支持する逆転判決を言い渡した。

 この事案で問題になったのは、臨時株主総会で決められた以下の新株発行および配当の実行と、被相続人による出資だ。
 ①被相続人が創業した上場会社株を有する同族会社に対し、被相続人が行った約36億円の出資
 ②その出資に対する新株発行90万5440株(1株当たり3976円)
 ③配当(普通株1株40円、総額1836万円)

 この結果、同族会社の保有資産約50億円のうち、投資有価証券の割合は50%を下回る26.1%となり、本来、純資産価額方式による評価が強制される株式保有特定会社などには該当しないこととなった。いわゆる「株特外し」などが実行されたことで、納税者はより低い評価方法として、評価通達に定める類似業種比準価額と純資産価額の「併用方式」を選択できるようになったわけだ。

裁判所の判断

 一審の東京地裁は、問題の株式の価額について、納税者が選択した「併用方式」により1株当たり1858円と評価したことに対し、新株発行等をしたことで相続税総額は約49%減少したが、仮に原告らが純資産価額方式を選択した場合、減少の程度は約2.8%にとどまっていたことを指摘。そして、この減少は、「評価通達179⑶が小会社株式の価額の評価方法について、納税義務者による選択を認めていることに起因する」とし、税務署の評価通達6項を適用した評価は「租税法の一般原則である平等原則に違反するといわざるを得ない」と判断した。

 一方、東京高裁は、新株発行等により評価通達の定める方法で評価すると、課税価格の合計額は約17億885万4000円の軽減(軽減割合は約44.6%)。納付すべき相続税額の合計額は9億7872万4900円の軽減(軽減割合は約48.15%)となり、「軽減される相続税の額、割合等を総合的に考慮して判断すると、納税者らの相続税の負担は著しく軽減されることになる」と判断。

 つまり、東京高裁は、相続税が著しく軽減されたかどうかの判断にあたり、1審判決のように評価通達に基づく評価額の差は「納税者の選択」に基づくもので、制度上認められているとして考慮しないのではなく、資産全体の規模に大きな変化がないにもかかわらず、預金等を株式に転化させる手法を用いることで、より低額となる通達評価を「選択できた結果」に着目したというわけだ。

 さらに東京高裁は、相続開始の約3か月前に相続人が証券会社を訪れて相続税の節税対策を相談していたこと、株式保有特定会社等に該当しないための方策を含め、新株発行等を用いた相続税減税スキームなどを連日のように協議を重ねていたことを指摘。これらを踏まえ、相続人が「相続税の負担を減じさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて新株発行等を行ったことは明らか」として、税務署の主張を認める判決を下した。

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