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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

申告漏れは故意か失念か? 仕事が多忙の中で行われた死亡保険金の請求手続

2022/01/24

 被相続人は生前、自らを契約者および被保険者として、長男(請求人)と二男のHを受取人とする生命保険契約をG社と締結していた。平成29年12月に被相続人が死亡。相続人は請求人とHの2人だった。

 平成30年1月、請求人およびHはG社に対して保険金の請求手続きを行い、同月に約1500万円が振り込まれた。その後、保険契約者から被相続人との別の生命保険契約が締結されている指摘を受け、請求人とHはG社に保険金の請求手続きを再び行い、後日、約1千万円が振り込まれた。

 同年6月、請求人およびHは遺産分割協議書を作成したが、そこには生命保険金等として最初に振り込まれた約1500万円のみが記載されていた。同年10月、請求人およびHは相続税の申告書を提出したが、これにも最初の約1500万円の保険金だけが記載され、もう1口の約1千万円の保険金については記載がなかった。

 令和元年12月、請求人は原処分庁の調査担当職員による相続税に係る一連の調査に基づき、本件死亡保険金を含む課税財産の申告漏れがあったとして、Hと共同で相続税に係る修正申告書を原処分庁へ提出した。

 原処分庁は、令和2年1月28日付で、請求人に対して過少申告加算税ならびに重加算税の賦課決定処分をした。請求人はこの重加算税を不服として審査請求を行った。争点は、請求人に通則法68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。

大学教授の仕事が多忙すぎて失念した可能性を否定できず

 請求人は、「(自分は)現役の大学教授であり、多忙の中、膨大な情報を整理する手段として日頃から仕事や個人的な情報のデータをパソコンに保存していたところ、本件死亡保険金の支払通知書のデータについてもパソコンに保存したものの、本件死亡保険金については記憶から抜け落ちていた」と主張。

 一方の原処分庁は、「申告漏れとなっていた本件死亡保険金について、請求人が自身でその支払請求手続を行ったこと、原処分庁の調査担当職員に本件死亡保険金の存在を伝えなかったことなどから、本件死亡保険金の存在識しつつ、それをあえて申告していないから、過少に申告する意図を有していたといえる。また、本件死亡保険金の存在を関与税理士などに説明せず、関係資料の提示もしなかった行為は、本件死亡保険金を相続税の申告財産から除外するという過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に該当するものとして、重加算税の賦課要件を充足する」と主張した。

 これに対して審判所は、「請求人およびHは、保険担当者からの指摘を受けるまで本件死亡保険金に係る生命保険契約が締結されていた事実を知らなかった。また、本件申告済保険金および本件死亡保険金の請求手続は、大学教授の請求人が学年末試験や入試業務への対応、海外出張など仕事で多忙な中でその合間に行われたものであることなどからすると、請求人が本件死亡保険金について、その存在および申告が必要な相続財産であることを一旦認識したものの、相続税の申告までの間に、本件死亡保険金の存在とこれについても申告が必要であることを失念ないし誤認した可能性を直ちに否定することはできない」、「さらに、関与税理士等とのやりとりの経過などを見ても、請求人が当初から本件死亡保険金をあえて申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたともいえないため、重加算税の賦課要件は充足しない」として処分の一部を取り消した。(令和3年3月1日裁決)

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