賃貸用建物の一部が未完成 引渡し日と課税仕入れをめぐる争い
2016/07/22
請求人A(平成19年3月設立の合同会社)は、賃貸用アパートを建築するため、平成19年5月、B社との間で工事請負契約書を取り交わした。その際、①工事の着工日を平成19年6月15日、②完成予定日を平成20年3月10日、③工事が完了した時は、B社の管理技師であるCが検査を行い、検査に合格しない場合はB社が補修または改造してCの検査を受ける、④引渡時期を検査合格後7日以内にする――などの内容を締結した。
その後、平成20年3月に建物の引渡しが行われ、請求人Aは3月3日新築を原因とする表示登記を経由し、同月11日に所有権保存登記、同月21日にD銀行を抵当権者とする抵当権設定登記を行った。
トラブルが発生したのは、その後だ。請求人Aは平成19年4月に「消費税課税事業者選択届出書」を提出しており、平成20年5月に消費税等の還付を受けるため、平成19年3月から平成20年3月21日までの課税期間の申告書を提出。ところが、当局がこれを認めず、争いが勃発した。
当局は、「請求人が建物を譲り受けた日は、本件課税期間ではない」と主張。その理由として、消費税法第30条第1項第1号では、課税仕入れを行った日について『物の引渡しを要する請負契約では、その目的物の全部が完成し引渡しがなされた日』と規定されており、「工事管理者のCが平成20年5月31日に建物の内装工事の確認を行い、B社にエアコンを納品したE社が平成20年6月6日にエアコンを売上げに計上しており、エアコン工事が未了であったこと」、また、「当初、工事完了の予定日を平成20年2月29日としていたが、平成20年6月25日の計画変更確認申請により、工事完了予定日が同月2 7日に変更され、実際に建物の完了検査が行われたのは同年7月2日であったことからすれば、同日まで、建物は共同住宅として使用できる状態になく、工事は完了していなかったと認められる。つまり、建物の全部が完成し請求人に引き渡された日は平成20年7月2日以降である」との見解を示した。
工事の残存を認めつつも 更正処分を取消した理由
果たして、請求人Aが建物を譲り受けた日は、本件課税期間なのか――。
この点について審判所は、平成20年3月21日の時点において、2階共用廊下の手すりの微調整など補修工事が必要で、エアコン工事も本件課税期間内に完了していなかったが、いずれも軽微な補修工事または附属設備の工事にすぎない」、「平成20年3月3日の時点で、本件建物は外壁および屋根により外気と分断され、コンクリート基礎により土地に定着し、共同住宅建物の用途に供し得るだけの構造を備えていたことからすれば、同日時点で、建物の大部分は完成していたと認められる。また、請求人AとB社は、建物が完成したとして建物の引渡しを合意し、B社は同日付で建物を請求人Aに引き渡したことが認められる」と指摘。
さらに、「請求人Aは、3月11日に建物の所有権保存登記を経由したのみならず、本件課税期間内に建物の権利保全、処分、請負代金の支払いおよび経理処理をすべて行っており、B社においても、平成19年4月1日から平成20年3月31日までの課税期間において本件請負金額の消費税額を経理処理していることを併せ考えれば、若干の工事が残存して未完成であったとしても、請求人AとB社との間で、実質的に建物が完成し引渡しが行われ、請負代金の全部が本件課税期間内に精算され授受されたものと認められる」として、「本件課税期間内に建物が完成し引渡しがあったものと同視できる」と判断。当局の更正処分を違法とし、その全部を取り消した。