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トラブルは現場で起きている!

理事長の横領は法人の意思とされた八幡福祉協会事件

2021/02/01

 社会福祉法人の理事長が法人のカネを横領する事件は、後を絶ちませんが、それを給与所得の支払いに当たるとして源泉徴収税の納付まで求められたら、法人はたまったものではありません。横領のおカネを持っていかれた上に、その源泉税まで取られるのです。

 京都府で特別養護老人ホームを運営する八幡福祉協会という社会福祉法人で起きた横領事件をめぐる税務訴訟で、平成14年9月20日、第一審の京都地裁判決は、理事長の横領は、法人の意思に反していたというべきで、法人に納税義務はないとしました。裁判所には、おそらくそこまで法人に負担させるのは酷だという判断が働いたのでしょう。判決は、理事長という地位が法人を代表し、法人の業務を執行する権限を有する機関という点を看過していました。

 しかし、平成15年8月27日、第二審の大阪高裁は、第一審の判決を覆して、理事長の横領は、その地位、権限、実質的な支配権に照らせば、法人の意思に基づくものであるとして、法人に納税義務があるとしたのです。法的な構成でいうと、理事長の行為は、法人の行為に他ならないのですから、そのことに着目したわけです。

 また、判決は「不当利得の場合において、源泉徴収義務者にその義務を課さなければ、結局、国民にその負担を転嫁することとなるのであって、このようなことは認めがたい。」と付け加えました。

 この裁判はその後、最高裁に舞台を移して争われましたが、平成16年10月29日、上告棄却、不受理の決定がなされ、納税者の敗訴が確定しました。

 こうした横領事件は、社会福祉法人だけでなく、学校法人や宗教法人、公益社団法人、公益財団法人、一般社団法人、一般財団法人、NPO法人などの非営利法人でも起きていますが、いずれの場合も横領されたおカネだけにとどまらず、源泉徴収税が後から法人に重くのしかかってくるという認識は、この事件によって広く共有されることになったといえます。

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