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トラブルは現場で起きている!

財産の帰属をめぐる二つの事件

2021/12/27

 国税庁は、令和3年12月に2020事務年度の相続税の税務調査の状況を発表。その中で関東信越国税局が公益法人がらみで22億2,000万円の申告漏れを指摘したことを明らかにしました。

 それによると、公益法人を主宰する女性が公益法人名義の投資信託を購入し、相続人の男性は投資信託の管理を女性から生前に任されていたものの、故意に税理士に伝えず、相続財産から除外して申告したとして、重加算税を含め約12億9,000万円を追徴課税したとのことです。報道のとおりであるとすれば、財産の帰属をめぐる争いというほどのものではなく、法人名義の財産の中に個人に帰属すべき財産が含まれていたのを、相続財産として申告しなかったというだけの事案のようです。

 一方、令和3年5月20日裁決で明らかにされた事案は、まず宗教法人の前住職名義の財産が個人に帰属する財産か、それとも法人に帰属する財産かをめぐって争われたケースでした。宗教法人側は、前住職名義の国債や投資信託、預金はもともと宗教法人の財産であり、前住職名義で管理していたものだと主張しました。これに対して、原処分庁は、前住職名義の財産を宗教法人の財産に移したことを個人から法人への贈与と認定し、さらにこの贈与を前住職の親族の相続税の負担を不当に減少する結果となると認められるとして、宗教法人に贈与税を課税する決定処分を行いました。

 持分の定めのない非営利法人の世界では、個人の財産を法人に贈与しても、会社の株式のように個人の持分が増えることはなく、ただただ相続財産が減少するだけですので、それが親族等の相続税の負担を不当に減少する結果となると認められる場合には、こんどは法人を個人とみなして相続税や贈与税を課税する租税回避防止措置が設けられています。

 この裁決では、前住職名義の財産を移動したことは宗教法人に対する贈与に該当するとして、宗教法人の運営組織や寺院規則には問題があるものの、前住職らが宗教法人の業務、財産の運用及び解散した場合の財産の帰属等を実質上私的に支配している事実は認められないとの理由から、相続税の負担が不当に減少する結果になるとは認められないとして柔軟な判断が示され、課税処分が取り消されました。

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