日税グループは、税理士先生の情報収集をお手伝いします。日税ジャーナルオンライン

MENU

トラブルは現場で起きている!

預金通帳の原本を偽造する新手の手口が登場

2021/04/21

 横領や使い込みを隠蔽するために、銀行や証券の残高証明書を偽造する手口は、これまでたびたび登場してきました。なかでもその偽造の巧妙さで監査法人を欺き「それまでの我が国の監査史上初めての偽装工作」(東京高裁)とされたのが日本コッパース事件です。

 ドイツのコッパース社の日本法人として昭和47年に設立された日本コッパース有限会社は、昭和52年ごろから経理部長が支払手形の不正振出や銀行からの不正借入れのほか、定期預金の不正解約などにより会社に約9億2,000万円の損害を与えていました。会社が監査法人に損害賠償を求めたことから裁判となり、平成3年の東京地裁判決では監査法人の責任を認め、約4,800万円の支払いが命じられましたが、平成7年の東京高裁判決では監査法人に責任はないとされた事件でした。経理部長は、残高証明書を偽造していたほか、銀行のものとまったく同じ当座勘定照合表用紙を印刷業者に特注し、タイプライターも銀行のものとまったく同じものを使用して印字まで一致させて偽造していました。

 偽造した残高証明書の金額の大きさで筆頭に挙げられるのは、なんといっても平成7年に明らかになった大和銀行事件でしょう。この事件では、ニューヨーク支店のトレーダーが、日本円で約1,100億円もの損失を隠すために、米国債の残高証明書を改ざんして監査役に示していました。

 ところが、これまでの常識を破って預金通帳の原本の偽造という新たな手口に踏み出したのが、令和3年3月に4億円を超える使途不明金が発覚した任意団体の全日本私立幼稚園連合会の事件です。

 全国およそ7,500の私立幼稚園が加盟するこの団体では、昨年度決算の監査が行われた際に、事務局が預金残高を大幅に水増しした通帳の写しを偽造して提出していました。しかし、提出された写しに疑念があり、通帳の原本を提出するように求められたことから、事務局では業者に依頼し、複数の口座の通帳の原本を偽造していたというのです。その手口ですが、報道によると、いままでの口座と同じ銀行で新しい通帳を作り、印字のフォントをまねた上で通帳の白紙のページに虚偽の残高や利息などを打ち込んでいました。そしてもともとの通帳の一部のページを差し替え、機械を使って縫い合わせる手口で通帳の原本を精巧に偽造したとみられています。

 すでに事件の関係者を業務上横領や通帳を偽造した私文書偽造などの疑いで警視庁に刑事告訴しているとのことですので、今後の捜査によって事件の詳細が明らかになってくることでしょう。

PAGE TOP