日税グループは、税理士先生の情報収集をお手伝いします。日税ジャーナルオンライン

MENU

スキルアップ税務

社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~⑬

2023/10/06

1)
 事実上の貸倒れの立証は当初申告においても納税者側にあり、疎明力ある証拠資料の保全は必須です。実務では証拠が豊富にあったとしても事実認定に着地することがほとんどなため、証拠保全をするなら、徹底的に行う必要があります。
 
 また、相手方が個人か法人かでも全く対応が異なります。原則として、

債務者が法人→決算書や資金繰り表を入手し、実態貸借対照表ベースに洗い替え、実質債務超過であることを疎明。

債務者が個人→当該個人の手元に1円も残っていない、ということ自体の疎明が困難。回収努力のために何をしたか、どういう経緯で結果として回収できなかったか、という点につき、稟議書ベースでも問題ないので文書化したものを残す。場合によっては同意を得た上で、相手との直接会話を録音してもよい。

 このように、対応が全く異なります。法人債務者のほうが簡単です。両社とも共通で、法人債務者のほうが簡単です。

・内容証明、特定記録、簡易書留
・簡易裁判所書記官からの債務者へ対して送付された支払督促、支払命令
・一切入金がなかった旨について経理担当者から担当役員への報告書(稟議書と同様)
も必要になります。

 法人税基本通達9-6-2の挙証責任は当初申告でも納税側にあります。貸倒対象になる債務者について特別の事情や背景をより深く十分に理解しているのは通常、納税者自身だからです(証拠への接近性)31。

 では、相手方個人の場合を検証します(個人への貸倒れ(法基通9-6-2)。

稟議書(支払能力報告書)
令和●年●月●日
1.貸倒処理における回収不能の考え方
租税法における税務上の取扱いについては、法人の有する金銭債権については、その全額が回収できないことが明らかとなった場合、当該金銭債権に係る貸倒処理を認めることとされている。
一方、過去の裁判例を踏まえると、全額回収不能とする取扱いは、1円でも回収可能性があるときに処理を認めないとするものではない。★1
 あくまで、社会通念に従った総合判断に基づき、金銭債権の全額が回収不能であると判断できる場合において、貸倒処理が認められると解する。

2.●氏(個人)の財務状況推移表

●氏 過去10年~貸倒損失計上時期まで1年ごとに明記
・債務
・資産
・年収(年収の内訳も記載)

3.処理の根拠
金銭債権の全額が回収不能であるか否かは、債権者・債務者の事情等を踏まえて、社会通念に従った総合的な判断を必要とする。
上記2における●氏の財務状況の推移を踏まえると、●氏は当期末に債務弁済に充てる程度の資産を有していない。
そして、年間●万円の●●(年金等々)収入については、●氏の最低限度の生活を保持するための生活資金である。
当該(年金)収入は債務額●億円に比して極めて少額であることは自明である。★2

★1 下記の裁判例(〇日本興業銀行事件/不良債権に係る貸倒損失の損金算入時期
 最高裁判所(第二小法廷)平成14年(行ヒ)第147号法人税更正処分等取消請求事件平成16年12月24日判決Z254-9877)を直接記載して問題ありません。社内で税務上の検討をしていることが疎明できます。

★2は、上記東京地裁平成25年10月3日判決を意識して記載しています。個人の場合、たとえ収入があったとしても、当該収入が返済の原資に回せるかどうか、すなわち収入の「性格」を明確にしておきます。

 「金銭債権の全額が回収不能であるか否かは債権者及び債務者の事情を踏まえ、社会通念に従った総合的な判断によるべき」の論拠として下記の裁判例があります。

〇日本興業銀行事件/不良債権に係る貸倒損失の損金算入時期
最高裁判所(第二小法廷)平成14年(行ヒ)第147号法人税更正処分等取消請求事件平成16年12月24日判決Z254-9877

 解除条件付き債権放棄をした事業年度での貸倒損失の損金算入は、債務者の資産状況だけでなく債権者側の事情も踏まえ判断したことから認められた事案です。

 納税者(上告人)は、新事業計画の破綻により多額の債権について回収不能な状況に陥っていました。この問題は政治問題化し関係者から責任を追及され、より大きな損失を避けるためには債権放棄しかないが株主代表訴訟リスクを避けるため解除条件付き債権放棄を実行し、法人税の申告において貸倒損失として損金算入しました。課税庁は損金算入できないとして更正処分をし、第一審においては、納税者の主張が認められましたが控訴審においては逆に課税庁の主張が認められ、納税者が上告しました。
 
 控訴審においては債務者の資産状況、支払い能力等の債務者側の事情から債権が全額回収不能であったといえないと判断されました。しかし上告審においては、債務者側の状況だけでなく、債権者側の事情、経済的環境等も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断すべきであり、当時の状況では債権者(銀行)の債権の全額が回収不能であることは客観的に明らかになっていました。これは債権放棄が解除条件付きでされたことによって左右されるものではないから納税者の請求を認容した第一審判決が正当であり、課税庁(被上告人)の控訴を棄却すべきであるとして判断し、納税者勝訴となりました。

 また、「社会通念に従った総合的な判断をして金銭債権の全額が回収不能と認められるのは、少額の収入があることをもって、金銭債権の全額が回収不能と断定するのは相当でない」の論拠としての裁判例がありますので、次回ご紹介します。

※この内容は『日税ライブラリー研修』で詳しく学ぶことができます。詳しくはこちら。

『日税ライブラリー研修』では、1年間定額で豊富なテーマのセミナー動画を何度でもご覧いただけます。
 詳しくはこちら。

 

PAGE TOP