社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~⑥
2023/05/16
1)役員借入金の相続税法上の時価
実態貸借対照表ベースで実質資産超過であっても一切減額評価はできません。勝手な減額については、原則として係争機関において納税者が敗訴します。端的には
1 )会社借入金の大部分が同族役員からのもので占められていること
2 )同族役員が経常的に業務をしている以上、数値上の債務超過でも倒産状態にはないと断定している
という考え方を当局も係争機関も貫徹しています。
2)擬似DES
手続きは非常に簡単です。また税務上の明確な取扱いがないため行為そのものに問題が生じ得るとは想定しえませんが、細かな箇所での指摘はあるかもしれません。
・スリーエス事件 東京地裁平成12年11月30日判決
・相互タクシー増資高額払込事件 福井地裁平成13年1 月17日判決
上記に共通していえますが、一連の取引が租税回避認定されれば、当該有利発行は妥当性を失います。
相互タクシー事件(福井地裁平成13年1 月17日判決)を検証してみましょう。
グループ法人税制適用下にある取引は除外することと仮定します。事案は債務超過1 億円の債務超過会社に対し1 億円の出資をし(出資側は(借方)投資有価証券1 億円が計上される)、その後、当該有価証券を備忘価額1 円で関係会社に譲渡します。そうすると( 1 円- 1 億円)の金額が投資有価証券売却損として損金計上できるというものです(数値は仮値、事例は単純化している)。判決では増資払込金額のうち、寄附金に該当する部分は法人税法上の評価として払込みした金額に該当しないとされました。この事案は法人税法第132条適用ではなく法人税法第37条を適用して否認しています。
寄附金発動ということは反射で受贈益課税の発動も考慮の余地がありそうです。つまり、上記でいえば、増資により新株を発行した債務超過会社に対する受贈益課税です。名古屋高裁判決文によると、この箇所は「私法上(商法上)有効な増資払込みであっても、法人税法上、それを寄附金と認定することが妥当である。同じ増資払込行為を受入れ側では増資払込みと認定しながら、払込み側で寄附金の支出と認めることは法人税法上は何ら異とするに足りない」としており、受入れ側で資本組入れ、払込み側で寄附金が発生することに矛盾はないと言いきっています。現行法人税法は金銭出資は全て資本等取引で処理され、損金益金が介入する余地は全くありません。
別冊ジュリスト租税判例百選(第4 版)(有斐閣)p.117(なお、最新版は第7 版となります、下記第1 ~第3 までは上記文献を引用(一部筆者改変)しています)で岡村忠生教授は、下記の問題提起をしています。
・第1 はいうまでもなく株式に関する会社法制の変化である。この事件では、寄附金となる境界として額面金額すなわち発行価額が利用されたが、もはやこれらは使うことができない。今日であれば、払込金額(会法199①二)が1 株100万円とされ、種類株式を利用して支配が継続したはずである。
・第2 は株主法人間取引に関する法人税法の変化である。すなわち、2001年改正により法2 編1 章6 款の新設や法24条の改正等が行われ、分割、合併、現物出資による資産の移転は原則として時価移転、適格組織再編成に該当する場合は簿価移転とされた。この区別では、「贈与又は無償の供与」かどうかは考慮の余地がない。これら諸規定もまた「別段の定め」である以上、法22条2 項はもちろん、法37条に一方的に劣後すると解することはできない。
・第3 は法132条の主張にも現れている事案の特殊性の影響である。本判決は、「対価」の有無を経済的合理性で判断し、「払い込んだ金額」を法人税法上の対価として否認した。こうした経済的合理性に基づく判断や私法上有効な取引の実質による上書きは、行為計算否認そのものであり、これを法37条が一般的に認めているとみることはできない。なお、法132条を、子会社貸付金それ自体が貸倒れ等により損金算入されるかを基準として適用した判決がある。(筆者注:当該判決はスリーエス事件(東京地裁平成12年11月30日訴月48巻11号2785頁)を指しています)。
この評釈に筆者は賛同します。すなわち、高額引受けの場合、当該払込金額は原則として有価証券の取得価額として処理しますが、法人税法第132条の要件に該当したときのみ、高額相当部分を寄附金課税(法法37)で否認すればよいと考えます。同様の考え方は適格分社型分割、適格現物出資でも同様です(ただし根拠条文は法法132の2 )。後者については岡村先生の第2 のご指摘に従うと、適格分社型分割等で高額引受けによる有価証券の取得がなされた場合、「移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額」(法令119①七)という法文から当該高額部分のみを寄附金抽出することが現実的に困難であるからです。
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