社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~⑪
2023/09/08
1)
取締役会議事録
(中略)
【議案】
第1号議案 金銭消費貸借契約締結の件(多額の借財(借入)の件)★1
議長は○○○○○○○○○○○○○○○○○○○資金が必要であり、○○○○との間で下記及び別紙の条件で、
借入れを行いたい旨の提案を行い、その承認を求めたところ出席取締役全員異議なく承認可決した。
記
借入日: 令和○年○○月○○日
借入額: 金○○○○○○○○円
返済日: 令和○年○○月○○日
利息: 年○%
損害金: 年○%
返済方法: 別紙返済計画表を参照のこと
以上
★1 オーナー貸付け(役員借入金)では疎明力が高まります。確定日付があるとなお望ましいです。
金銭消費貸借契約書
貸主 を甲、借主○○株式会社を乙とし、甲が乙に対し、乙の営業資金にあてるため、次の通り金銭消費貸借契約を締結した。★1
第1条 甲は、乙に対し、金 万円を以下の約定で貸付け、乙は、これを借受け、受領した。★2
第2条 乙は、甲に対し、前条の借入金 万円を、令和 年 月から令和 年 月まで毎月 日限り、金 万円を 回の分割で、甲に持参又は甲の指定する銀行口座に送金して支払う。ただし甲乙間の合意をもって1年分後払いも許容される。
第3条 本件貸金の利息は、前月支払い後の残金に対する年 パーセントの割合とし、乙は、毎月 日限り当月分を甲方に持参又は送金して支払う。ただし、甲乙間の合意を持って1年後後払いも許容される。★3
(以下略)
★1 上記と真逆であるオーナー借入金については、
・議事録は「できれば」あったほうがよいです。
・金銭消費貸借契約書の作成は必要です。
・元本返済のみならず利息の計上も必須です。
★2 利率の設定まで神経質になる必要はありません(パチンコ平和事件)。
元本:1年後1年分後払い(返済は必須)についてもあまり配慮する必要はありません。
★3 利息:1年後1年分後払いでも問題ありません。利率を考慮するなら適正な利率の決定として、
・平均調達金利
・無借金の場合、短期プライムレート以下の金額
になります。法人間と同様の設定でも問題ありません。
オーナー貸付金(会社では役員借入金)については、契約書の作成は必須です。これはそもそもが金銭消費貸借であったか、贈与にあたるのかの判断における出発点になるからです。
金銭消費貸借の契約が仮にない、という場合、
① 通帳間での実際の資金移動(ただし、定期的に返済している事実が確認できていることが必須、返済の事実が長期にわたり存在しない場合、贈与認定)
② 帳簿記入(勘定科目内訳書作成も含めて)
という間接証拠の積み重ねが必要となります。オーナー法人では帳簿記入はほとんどエビデンスとしては意味がないため(帳簿の記入に恣意性を介入できるから)、通帳間の移動のほうがエビデンス力は強いです。
しかし、いずれにせよ原始契約書がない場合、金銭消費貸借か贈与かに係る事実認定は必ずなされます。
なお、原始契約書がない場合、時効も原則として成立しません。これも事実認定に着地しますが、例えば契約書がない状態で、上記の①②については整理・完備されていたとしても、いわゆる時効の起算点が明確にはなりません(通帳間の移動年月日で主張し得るかどうかは事実認定の問題です。)。
仮に時効論点の主張をしたいのなら、かなり保守的な手法ですが、後述の債務承認契約書を作成することで当事者間の意思の合致を証明し、起算点を明確にすることができます。より詳細に研究したい向きは最判昭和56年6月30日判タ447号76頁をご参照ください。
また、オーナー借入金(会社貸付金)の利息決定方法の一手法として大阪高裁昭和47年(行コ)第42号法人税額更正決定取消等請求控訴事件(TAINSコードZ097-4169)では、毎月末の貸付金残高が変動している場合、
(STEP1)毎月末の残高を算定し、1事業年度分(12か月分)を合算
(STEP2)合算したものを12月で割る。当該金額(平均残高)に利率を乗ずる
このような方法も認められます。有利なほうを選択すべきです。
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