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社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~㉚

2024/07/29

1)

裁決・裁判例での反論について

 当局調査「時点」での反論として過去の裁決・裁判例を利用することはよくあります。しかし、調査官から下記のような再反論を受けることも非常に多くあります。
・裁判例であれば一定程度、課税庁を拘束するので、反論根拠になるのは納得する。
・裁決は国税不服審判所という行政機関の判断であるから、課税庁は拘束されるおぼえがない、すなわち反論の根拠にならない。この場合、裁決の拘束性を検証します。行政不服審査法43条1項によれば、裁決は拘束力を有します。

「裁決結果の公表基準について(事務運営指針)」(平成12年9月8日 国税不服審判所長)

(趣旨)
 国税不服審判所においては、従来より、納税者の正当な権利利益の救済を図るとともに、税務行政の適正な運営の確保に資するとの観点から、先例となるような裁決について(※下線筆者)、固有名詞を匿名にするなど、審査請求人等の秘密保持に十分配意した上で、裁決結果を公表してきたところであるが、今般、公表基準の明確化を図ることとしたものである。

             記
1.裁決結果の公表基準
(1)納税者の適正な申告及び納税のために有用であり、かつ、先例性があるもの(※下線筆者)
(2)適正な課税・徴収の実務に資するものであり、かつ、先例性があるもの(※下線筆者)
(3)その他、納税者の正当な権利利益の救済等の観点から国税不服審判所長が必要と認めたもの

(注)例えば、次に掲げるものは、上記の基準に該当する。
○ 法令又は通達の解釈が他の事案の処理上参考となるもの
○ 事実認定が他の事案の処理上参考となるもの
○ 類似の事案が多く、争点についての判断が他の事案の処理上参考となるもの
○ 取消事案等で納税者の主張が認められた事案で先例となるもの

2.ただし、次に該当する場合には公表しない。
(1)審査請求人等が特定されるおそれのあるもの
(2)審査請求人等の営業上の秘密が漏れるおそれのあるもの
(3)その他、審査請求人等の正当な権利利益を害するおそれのあるもの

重要情報3
「裁決結果の公表基準の取扱いについて(指示)」(平成23年3月4日 国税不服審判所長)
「裁決結果及び裁決要旨の公表手続について(事務運営指針)」(平成23年3月29日 国税不服審判所長)

むしろ、前段の、
・裁判例であれば一定程度、課税庁を拘束するので、反論根拠になるのは納得する。

 これは慣行であって、絶対ではありません。裁判例といえども先例として認められているもの、そうでないもの(限界事例)があります。限界事例とされている裁判例は原則として反論としては利用できません。
この区分は実務家単独で判断することは困難で、また、独自に判断できる性格のものではないため、研究者の判例評釈等々で区分されているものを確認するのが最も簡便です。

 証拠をどこまで提示するか質問検査権に係る条文は下記のとおりです。

国税通則法第74条の2
 国税庁、国税局若しくは税務署又は税関の当該職員(中略)は、所得税、法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、次の各号に掲げる調査の区分に応じ、当該各号に定める者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件(中略)を検査し、又は当該物件(中略)の提示若しくは提出を求めることができる。

 税務調査で提示・提出しなければならないのは、「その者の事業に関する帳簿書類その他の物件」とされています。
 「その者の事業に関する」と規定されていますから、個人事業主に対する調査においては、事業用と生活費用の通帳が「明確に分かれている場合」、生活費用の通帳を見せる必要は一切ありません。
 法人も同様で、法人と役員が金銭の貸借をしている場合などを除いて、個人用の通帳を見せる必要は一切ありません。

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