社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~㉝
2024/08/28
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資産税に係るエビデンスの基本的な考え方
相続税申告や贈与税申告は、特例適用があった場合はもちろん、非常に多くの資料を当初申告でも添付します。それがエビデンスとして当局調査においても認定されるため、当初申告での添付書類そのものが当局へのエビデンスの提出と同義になることが多いといえます。
当初申告時では当局審理部をいたずらに混乱させるのを避けるため、添付書類は最小限に、という考え方もあります。原則としては他の税目の申告書と同様、間違いのない確実な資料は当初申告時に添付しますが、少しでも判断に疑義を要するもの、当局として事実認定に持ち込むことが可能と判断できるようなものは、先述のとおり当初申告では添付しないという見極めも大切となります。
エビデンスとは、一般的に証拠・物証・形跡等を含めた意味合いとして用いられ、本書における税務上のエビデンスも基本的にはこれと同じ意味で用いることとします。具体的には、当局調査を受けたときに調査官に提示して納税者の主張について根拠付ける資料をいいます。本書では、相続税や贈与税における税務調査で必要となるエビデンスの考え方に係る基本的な考え方について検証します。ここでは、総論として、相続に限定されず、広く税務上のエビデンスに適宜言及しています。
税務上のエビデンスは、外部によって作成された外部証拠資料と、本人が作成に関わった内部証拠資料とに大別されます。証拠資料は、一般的に内部証拠資料より外部証拠資料のほうが疎明力が高い、証拠能力が強いといわれます。
一方、内部証拠資料は証明力に関しては弱いとも思えます。しかし、納税者自身の「判断」を主張する道具として考えることもできます。そのため、説明の方法いかんによっては、外部証拠資料より主張力が高い場合も十分にあり得ます。
すなわち、証拠力としては外部証拠資料のほうが高いかもしれませんが、当事者の主張は内部証拠資料のほうが高いことも往々にしてあることから、一概に外部証拠資料のほうが証拠力として高いとは言いきれないのです。税務調査においてエビデンスは事実関係を明らかにする道具の1つです。エビデンスは事実関係に係る説明の点で、納税者側においても当局においても活用されることになり得ます。
納税者が現場の調査に対応する際のエビデンスの作成、整理、主張に係るポイントとして、当局担当者に対し、この現場で処分をしたところで、国税不服審判所や裁判所など、係争機関では勝てない可能性が高いという十分な説得力ある資料を証拠保全しておくことが重要です。なお、これは他の税目でも考え方は一切同じです。これは当局調査の連絡が来てから準備をしても手遅れです。そのためにはエビデンスを日常的に整理しておく必要性は極めて高いことになります。先述のとおり相続税や贈与税の申告においては当初申告時に添付資料が多く求められます。その点、一定程度の証拠保全は申告をする際に必要であるからこそ、必然的に早めに、日常的に準備をすることが大切になります。
このように国税不服審判所や裁判所で仮に係争になったとした、事実認定に係るレベルと同等のレベルに係る事実関係の主張、整理が極めて重要です。
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