社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~㊿
2025/06/13
代償分割に伴う負債の利子払いと代償金の捻出に困難を伴っている背景、事情のエビデンスについてです。父の遺産について、相続人A・B間で遺産分割を行い、遺産のすべてをAが相続する代わりに、AはBに対して相続分に見合う現金を今後10年間にわたって支払うことで協議が成立しました。利息については何も取り決めませんでした。この場合においても、利息を支払う必要はありません。また、支払わなくても贈与税は課税されません。被相続人の遺産を代償分割の方法により分割することとした場合、当事者間の合意でその代償債務について利息を支払うとしても、これを認めない理由は何もありません。
また、逆に当事者同士の合意で利息を支払わないこととした場合に、その債務を負担することになった者に対して、経済的利益の享受があったとして贈与税が課税されることもありません。
元来、代償債務は遺産分割の履行の過程で発生する分割遺産の一部と考えられ、一般取引における債務と同じものとは考えづらいからです。一方、当初利息を支払うこととしていたものについて、その後支払を免除した場合には、当然その免除益に対して贈与税が課税されることになります(相法8、9、相基通19の2-8)。なお、相続開始から1年以上要するような代償分割においても、期間の経過に伴い金銭贈与認定されることはありません。ただし、
・代償金の捻出に困難を伴っている背景、事情が分かるエビデンスの準備は必要です。
対個人であるため生活困窮に係る証拠保全をしたいところですが、シリーズ<法人編>の貸倒損失での対個人で検討したように、対個人における証拠について強く主張できる決定的なものがありません。残高の少ない、生活費で全て費消してしまうような経済状況を示した通帳、行政から何かしらの補助を受けている等々を残しても、当局から少しだけでも捻出できる、と指摘される可能性はあります。
離婚とそのエビデンスについてです。
扶養控除の適用を受けることについてのエビデンスについては、離婚協議書にその詳細を明記する必要があります。財産分与の分割払いについて、生活困窮以外の理由であれば離婚協議書、又は分割払いに至った後で作成する覚書で支払額、支払時期等をあらかじめ確定しておき、それに従い支払えば特段問題は生じません。養育費と扶養義務者、扶養控除などの取扱いは下記です。
離婚に伴い、子に対する養育費の支払いが、①扶養義務の履行として、②「成人に達するまで」など一定の年齢に限って行われる場合には、その支払われている期間については、原則として「生計を一にしているもの」として扶養控除の対象とすることができます。甲(夫)が丙(子)の学費である養育費を負担し、乙(妻)が丙(子)の生活費を負担しているので、甲、乙いずれもが丙と生計が一であり、丙を扶養していると考えられます。
このように、子が元夫の控除対象扶養親族に該当するとともに元妻の控除対象扶養親族にも該当することになる場合には、扶養控除は当然のことながら元夫又は元妻いずれか一方だけにしか認められません。
したがって、扶養控除の適用を受けることについてのエビデンスは、
・離婚協議書において、
→養育費を支払っている親
→もしくは実際に同居して生活全般の扶養をしている親のいずれかにすることを、
→離婚の協議内において、お互いに合意しておくべきものとなります。
〇居住用財産を分与した場合の課税の特例の適用の有無
個人が居住の用に供している家屋及び敷地を譲渡した場合には、譲渡所得金額から3,000万円の特別控除(措法35)の適用があり、その居住用財産の所有期間が10年を超える場合には、居住用財産の軽減税率の特例(措法31の3)の適用がありますが、その個人の配偶者その他の親族に対する譲渡については、居住用財産の譲渡所得の特別控除及び軽減税率の特例の適用は認められていません。
しかし、離婚に伴う財産分与は、離婚により夫婦関係が終了した後にされるものであり、配偶者に対する譲渡に該当しないので、居住用財産の譲渡所得の特別控除及び軽減税率の特例の適用が認められます(措通31の3-23、35-5)。
この際、
・離婚前(戸籍の除籍手続前)に財産分与があっても、
・その後速やかに除籍手続が行われた場合には、
→その譲渡は財産分与時ではなく除籍後に効力が発生したものと考えられるため、
居住用財産の譲渡所得の特別控除及び軽減税率の特例の適用は認められます。この時系列を明確に整理し証拠保全します。協議離婚成立前に一部財産を支払った、また、その後何かしらの事情で事実上の分割払いになった場合、
・その背景、事情に係るエビデンス
を用意しておけば財産分与の一部として認められ、贈与の課税関係は一切生じません。
前問と同様になりますが、仮に分割払いに至った原因が、生活困窮の場合、対個人であるため生活困窮に係る証拠保全をしたいところです。
シリーズ<法人編>の貸倒損失での対個人で検討したように、対個人における証拠について強く主張できる決定的なものがありません。残高の少ない、生活費で全て費消してしまうような経済状況を示した通帳、行政から何かしらの補助を受けている等々を残しても、当局から少しだけでも捻出できる、と指摘される可能性はあります。生活困窮以外の理由であれば離婚協議書、又は分割払いに至った後で作成する覚書で支払額、支払時期等をあらかじめ確定しておき、それに従って支払えば特段問題は生じません。
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