スキルアップ税務

社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~64

2025/12/16

〔判断〕

 売買契約時における各土地の時価(相続税法7条にいう時価)は、課税庁の鑑定とおりであると認められるところ、売買契約における各土地の売買代金の合計額は時価の合計額の2分の1にも満たない上、各売買契約は、母からその法定相続人である子(納税者)に対して母所有の土地を譲渡するものであり、しかも、その決済方法は、譲渡人である母の銀行からの借入金を譲受人である納税者が引き受け、譲渡人に対する仮払金と相殺するなどとされていることなどにかんがみると、各土地の譲受けは、相続税法7条(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合-低額譲受)にいう「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当するものというべきであり、納税者は、各土地の時価と売買代金との差額に相当する金額について、これを母から贈与により取得したものとして、贈与税の納税義務を負うというべきであるとされた。「不動産鑑定評価額に合理性を欠く」⇒(中略)⇒「錯誤無効の主張は認められない」とあります。鑑定評価額の合理性についての主張は当然、納税者が負いますが、それが不知、うっかりであっても同様の結論になると思われます。

重要情報

資産税審理研修資料H230800
行政文書 資産税審理研修資料 平成23年8月作成 東京国税局 課税第一部 資産課税課 資産評価官
Ⅶ 財産評価審理上の留意点

1 鑑定評価書の仕組み
鑑定評価額の決定までの流れは、次のとおりである。

①比準価格

 比準価格とは、鑑定評価の手法のひとつである取引事例比較法により求めた価格をいう。

 取引事例比較法とは、類似の取引事例の取引価格について、事情補正(売り急ぎなどの特殊事情のある場合、正常な事情の下に補正すること。)、時点修正(価格時点の価格に修正すること。)等を行った後に、標準化補正(事例地の存する地域における標準的な宅地の価格に補正すること。)及び地域格差の補正(事例地と対象不動産の存する地域が異なる場合に地域相互間の比較・補正をすること。)を行うことにより価格を求める手法である。

②収益価格

 収益価格とは、鑑定評価の手法のひとつである収益還元法により求めた価格をいう。収益還元法とは、価格と賃料には元本と果実との間に認められる相関関係が存在するという考え方に基づき、賃料から価格を求める手法である。すなわち、対象不動産から将来得られると予想される賃料収入等の総収益から経費等の総費用を控除して求めた純収益を、還元利回りによって還元して価格を求める手法である。

③積算価格

 積算価格とは、鑑定評価の手法のひとつである原価法により求めた価格をいう。原価法とは、対象不動産と同じ不動産を価格時点において再び調達した場合のコストである再調達原価を基に価格を求める手法である。再調達原価は、素地の取得原価に造成工事費等を加算して求める。この手法は新しく開発造成された団地や埋立地など、素地の取得原価がわかる土地には適用が可能である。しかし、造成されてから年数が経過して熟成した既成市街地等には、素地の取得原価が把握できないため適用できない。

④標準価格

 標準価格とは、対象不動産が存する近隣地域における標準的な宅地の価格をいう。この場合の「標準的な宅地」とは、「近隣地域の状況」に示されるような街路条件、交通接近条件、環境条件及び行政的条件等を備えている地域において、標準的な状態にある宅地をいう。標準価格は、比準価格、収益価格、積算価格を関連付け、公示価格を規準とした価格との均衡を勘案して求める。

 なお、取引事例比較法、収益還元法、原価法の各手法から算出された3つの価格及び開発法による価格は、適正な鑑定評価額を求めるための試算的な価格であるため「試算価格」と呼ばれている。

⑤公示価格を規準とした価格(公示規準価格)

 公示価格を規準とした価格とは、地価公示法第11条により、対象不動産と類似する公示地の公示価格と比較して求めた価格をいう。

⑥開発法による価格

 開発法による価格とは、対象不動産を開発する場合に、一体利用をすることが合理的と認められるときは、価格時点において、最有効使用の建物が建築されることを想定して、販売総額から通常の建物建築費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格をいう。また、分割利用をすることが合理的と認められるときは、価格時点において、区割りして、標準的な宅地とすることを想定し、販売総額から通常の造成費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格をいう。

⑦鑑定評価額

 鑑定評価額は、上記④の標準価格を基に、その地域における標準的な宅地との個別的要因の比較を行って求める。対象不動産が、その地域における標準的な宅地である場合、標準価格と鑑定評価額は一致する。

3 検討の方法及び手順の概要
(1)個別的要因、地域要因の把握と適正な相続税評価額の算定(検討1、検討2、検討3)

 不動産の評価における最も重要なことは、現地及びその周辺の状況を的確に把握することである。したがって、鑑定評価の内容を検討するためには、現地及びその周辺の状況を確認し、鑑定評価書に記載されている現地及びその周辺の現状把握に誤りがないかを把握し、その状況を織り込んだ相続税評価額を適正に算定し、鑑定評価額との比較を行うことが第一段階の作業となる。

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