「金に投資すべき?」と聞かれたら
2025/05/16
さてこの春はトランプ関税の急落で株式市場が荒れました。そんななか金の価格も下落しましたが、安全資産、有事の金といわれる金はいち早く回復しました。急落時は利益確定や他の資産の下落の補填などから金も連れ安になるやすいものの、今回のように相対的に投資資金が向かうことは過去にも見られています。むしろ今は長期的にはチャンスかもしれません。
「金に投資すべき? 」と聞かれたら、私の見解では答えはYesです。今回は不確実性と向き合わればならない時代にポートフォリオに入れることを検討したい、投資先としての金についてお伝えします。

近年、金は改めて注目される投資対象となっています。インフレの進行や通貨の信頼性への懸念が高まる中、多くの投資家や機関がポートフォリオの一部として金の保有を増やしています。昨年2024年のパフォーマンス(円ベース)では金は39.9%の上昇で、S&P500や日経平均のパフォーマンスを出しています。また2024年に金価格は年間で40回以上も高値を更新、価格だけでなく取引量も多くなっています。
このように金は「守りの資産」としてだけでなく「戦略的資産」としても注目すべきものです。
まずは守りの資産としての側面から、金への投資を検討すべき理由を考えていきましょう。
インフレ時代に1番おさえておきたいのは価値保存の役割です。金は長い歴史を通じて、価値の保存手段として認識されてきました。特にインフレが進行する時代において、法定通貨の購買力が低下する中、金はその価値を維持する特性を持っています。インフレが進むと、現金や債券などの固定利回り資産の実質価値は下がる一方、金はその代替として需要が高まる傾向があります。
現在、多くの国で金融緩和政策や財政支出の拡大が続いており、それに伴う通貨供給の増加がインフレの一因となっています。また金は米国のマネーサプライ(通貨の総量のこと。M2などの指標で測定)に追随するような値動きをします。米国のバランスシートは一旦縮小傾向にあるものの、ここから緩やかに再拡大することが見込まれており、そうなると中央銀行が資産を購入して市場に新たな資金がまた供給され、市中銀行の準備預金が増加、銀行はその準備預金を元に貸出を拡大するという流れからマネーサプライが増加することが一般的です。いわゆるカネあまりの状態では物価が高止まりする可能性も。こうした背景から、金は「インフレヘッジ」の代表的な手段として選ばれることが多いのです。短期的にもトランプ政権の貿易関税の影響でインフレ懸念が金上昇の追い風となる可能性もあるでしょう。
次いで各国中央銀行による金の買い増しも見ておく必要があります。近年、各国の中央銀行は金の保有を大幅に増やしています。2022年、各国の中央銀行による金購入量は約1,136トンと過去55年で最高水準を記録しました(世界金協会データ)。2023年以降もその動きは続いており、2024年まで中央銀行の金購入額は3年連続で1000トンを超えています。
なぜ中央銀行が金を買い増しているのでしょうか?その背景として考えられるのはまず外貨準備の多様化、足元で世界各国が巨額の財政赤字を抱えている状況で通貨の価値が長期的に低下する懸念(通過不安)のヘッジとして、特に米ドルに対する依存度を下げるための手段、基軸通貨に対する代替資産として金が選ばれているということです。
また世界の分断、貿易関税など世界的な政治・経済先行き不透明感、地政学的リスクの高まりへの対策として信頼性が相対的に高い資産としての金を保有する傾向が強まっています。さらに金は紙幣と違い、政府の政策やインフレに直接的に影響されにくい特徴を持っている実物資産であり、中央銀行が金を買い増していることは金の価値が今後も高い水準で維持される可能性を示しているのでは。ちなみに2024年は特にポーランド、トルコ、インド、中国、アゼルバイジャンなどの中央銀行が金保有量を増やしています。
このように投資環境が不透明な時代において、金はリスクヘッジ資産としての魅力を持っています。たとえば、株式市場が急落する局面では金の価格が上昇する傾向があります。これは投資家がリスク資産から安全資産へ資金を移す動きがあるためです。
また、地政学的な緊張や経済危機が発生した際に、金はその真価を発揮します。近年の世界的な不安定要因(ウクライナ情勢や米中対立など)は、金の需要を押し上げる要因となっています。
そして戦略的資産としての側面から見ると、投資対象としての割合の増加は見逃せません。近年では金を投資ポートフォリオにおける重要な一部として組み込む動きが活発化しています。特に、機関投資家が金への投資を増やしている点に注目が集まります。分散効果の向上を狙った投資先として、金は株式や債券と相関性が低いため、ポートフォリオ全体のリスクを低減する効果があることを見込んでの買いが入っているようです。これまでも株式市場の急落や暴落時に金はいち早く価格が戻ったり逆行高となったりしやすいです。2007年の金融危機の際もリスク資産と比較して価値を維持してきました。去年も大きな下落がありましたが、トランプ大統領就任や世界の分断懸念など世界の不確実性が増すなかで急落の可能性も増えていると機関投資家も考えているのかもしれません。
また取引するうえで流動性の高さも重要です。金は市場で容易に取引が可能であり、現金化がしやすい資産です。金融市場と比較しても流動性が高く、米国債と同程度の取引量があるようです。加えて個人投資家にとってはETFや投資信託、CFDなどオンラインプラットフォームを通じて金への投資の選択肢も増えてやりやすくなっていることも覚えておきたいところです。
金の成長性としては中長期的な押し上げ要因と考えられるインドの中間層の増加に伴う金需要増も期待したいところ。インドは世界最大の金消費国の一つであり、特に中間層の拡大が金需要を押し上げる大きな要因となっています。伝統的に、インドでは金が結婚や祭事で重要な役割を果たし、富の象徴として認識されています。経済成長とともに中間層の可処分所得が増加することで、金の購入が増えると予想されます。これは金市場全体にとってポジティブな要因であり、長期的な価格上昇を支える要因の一つです。
ここまでお伝えしてインフレや通貨価値低下に対するヘッジ、リスク分散によるポートフォリオの安定化、長期的な価格上昇への期待を踏まえると、金をポートフォリオに組み込むことは合理的であるように感じます。
金は伝統的な安全資産であるだけでなく、現在の投資環境においても魅力的な選択肢となっています。具体的な保有割合は各投資家のリスク許容度や目標によって異なりますが、金の保有比率を5~10%程度に設定することが推奨されることが多いようです。個人的にはポートフォリオの10〜15%程度を検討してもいいのかなと思っています。今後もその需要は高まると見られていますし、景気の良し悪しに関わらず金は長期的にプラスのリターンを生み出してきたため、実際のデータでもポートフォリオにゴールドを追加した方がリターンが上昇する傾向があります。気になる方はぜひご自身でも金について調べてみてください。
アドバイザー/三井 智映子
金融アナリスト、株式会社オフィスはる代表、日本PCサービス株式会社 社外取締役、株式会社イベントス取締役COO、「投資WEB」プロデューサー
【出演・掲載実績】
NHK・フジテレビ・テレビ東京・日本テレビ・BSフジ・テレビ大阪・ラジオNIKKEI・ダイヤモンドZAI・マイナビ・週刊フジ・日経マネー・女性セブン・SPA!・FX攻略.com・ワッグル・CLASSY・SPA!など
【著書】
『最強アナリスト軍団に学ぶ ゼロからはじめる株式投資入門 』(講談社)
『はじめての株価チャート1年生 上がる・下がるが面白いほどわかる本』 (アスカビジネス)